はじめに

オープンソースソフトウェアの世界には様々なライセンスが存在しますが、その中でもCPL(Common Public License)は特に企業利用を意識して設計されたライセンスとして注目されています。
今回は、CPLの基本から実際の使い方まで、わかりやすく解説します。

CPL(Common Public License)とは

CPLは、IBMによって2001年に開発されたオープンソースライセンスです。
正式には「Common Public License Version 1.0」と呼ばれ、IBMが以前開発したIBM Public License(IPL)の後継として、より汎用的な利用を可能にするために作られました。

主な特徴

1. 企業利用に配慮

CPLは大企業での利用を念頭に置いて設計されており、特許権の扱いや責任の所在について詳細に規定されています。

2. ウィークコピーレフト※1

  • 改変したソースコードの公開義務あり
  • リンクするだけの場合はソース公開不要
  • プロプライエタリソフトウェアとの組み合わせが可能

3. 特許条項の明確化

  • 特許権の自動許諾
  • 特許訴訟を起こした場合のライセンス終了
  • 特許に関するリスクの軽減

CPLライセンスの全文

以下に公式のCPLライセンス全文の主要部分を掲載します(Common Public License Version 1.0 – Eclipse Foundation より):

Common Public License Version 1.0

THE ACCOMPANYING PROGRAM IS PROVIDED UNDER THE TERMS OF THIS COMMON 
PUBLIC LICENSE ("AGREEMENT"). ANY USE, REPRODUCTION OR DISTRIBUTION OF 
THE PROGRAM CONSTITUTES RECIPIENT'S ACCEPTANCE OF THIS AGREEMENT.

1. DEFINITIONS
"Contribution" means...
"Program" means...

2. GRANT OF RIGHTS
Subject to the terms of this Agreement, each Contributor hereby grants 
Recipient a non-exclusive, worldwide, royalty-free copyright license...

3. REQUIREMENTS
A Contributor may choose to distribute the Program in object code form 
under its own license agreement, provided that:
a) it complies with the terms and conditions of this Agreement; and
b) its license agreement:
   i) effectively disclaims on behalf of all Contributors all warranties...

4. COMMERCIAL DISTRIBUTION
Commercial distributors of software may accept certain responsibilities...

5. NO WARRANTY
EXCEPT AS EXPRESSLY SET FORTH IN THIS AGREEMENT, THE PROGRAM IS PROVIDED 
ON AN "AS IS" BASIS, WITHOUT WARRANTIES OR CONDITIONS OF ANY KIND...

6. DISCLAIMER OF LIABILITY
EXCEPT AS EXPRESSLY SET FORTH IN THIS AGREEMENT, NEITHER RECIPIENT NOR 
ANY CONTRIBUTORS SHALL HAVE ANY LIABILITY FOR ANY DIRECT, INDIRECT...

7. GENERAL
If any provision of this Agreement is invalid or unenforceable...

※日本語での詳細な解説については、オープンソース・ライセンスの日本語参考訳や各企業の法務部門にご相談ください。

この詳細な条項により、企業での利用時の法的リスクを最小限に抑えています。

何ができるのか

自由な利用

  • 個人利用・商用利用問わず使用可能
  • プログラムの実行・複製が自由
  • 他のプロジェクトへの組み込み

改変・配布

  • ソースコードの改変が可能
  • 改変版の配布が可能
  • ただし、改変部分のソースコード公開が必要

商用製品での利用

  • プロプライエタリソフトウェアとの組み合わせが可能
  • CPL部分以外はクローズドソース可能
  • 商用製品として販売することができる

特許権の保護

  • CPLソフトウェアに含まれる特許の自動許諾
  • 貢献者の特許権による訴訟リスクの軽減
  • 特許紛争の抑制効果

注意すべき点

1. ソースコード公開義務

CPLソフトウェアを改変した場合、その改変部分のソースコードを公開する必要があります。

2. 特許訴訟の制限

CPLソフトウェアの利用者が特許訴訟を起こした場合、ライセンスが自動的に終了する可能性があります。

3. 配布時の義務

  • ライセンス条文の同梱
  • ソースコードへのアクセス手段の提供
  • 改変箇所の明示

4. 無保証・免責

ソフトウェアの品質や動作について保証されず、使用による損害の責任は利用者が負います。

他のライセンスとの比較

ライセンスコピーレフト特許条項主な特徴
CPLウィークあり企業利用に配慮・特許保護
GPL v3ストロングあり全体のオープンソース化必須
LGPLウィークありライブラリ利用に適している
MITなしなし最小限の制約・シンプル
Apache 2.0なしあり特許保護あり・企業利用人気

実際の使用例

CPLライセンスが採用されている主要なプロジェクト:

  • Eclipse IDE – 統合開発環境(2001年にCPLでリリース、現在はEPL※2に移行)
  • IBM Developer関連のオープンソースプロジェクト – 多数の企業向けソフトウェア
  • 一部のJavaライブラリ – エンタープライズ向けライブラリ(現在は多くがApache 2.0やEPLに移行)

開発者として気をつけること

プロジェクトでCPLを採用する場合

1. LICENSEファイルの作成

  • プロジェクトルートに「LICENSE」ファイルを作成
  • CPL全文をコピー
  • 必要に応じて著作権者情報を記載

2. README.mdでの表示

## License
This project is licensed under the Common Public License Version 1.0 - see the [LICENSE](LICENSE) file for details.

3. 特許に関する検討

  • 自社の特許ポリシーとの整合性確認
  • 特許訴訟リスクの評価
  • 法務部門との相談

CPLソフトウェアを利用する場合

1. ライセンス確認

  • CPLのバージョン確認(1.0が一般的)
  • 改変予定の有無確認
  • 配布予定の有無確認

2. 改変時の対応

  • 改変部分のソースコード公開準備
  • ビルド手順やドキュメントの整備
  • 改変箇所の明確な文書化

3. 配布時の対応

  • ライセンス条文の同梱
  • ソースコードアクセス手段の提供
  • 改変内容の説明文書作成

EPL(Eclipse Public License)との関係

CPLは2009年2月25日にEclipse Foundationに管理が移管され、EPL(Eclipse Public License)として改良・発展しています。EPLはCPLをベースとしながら、より現代的な要求に対応したライセンスとなっています。

主な改良点

  • より明確な条文構成
  • 特許に関する訴訟条項の一部削除
  • ガバナンス条項の追加
  • Eclipse Foundationによる管理体制

まとめ

CPL(Common Public License)は、企業でのオープンソース利用を前提として設計された特徴的なライセンスです。特許条項の明確化やウィークコピーレフトの採用により、商用利用とオープンソース開発のバランスを取ることを目指しています。

現在は後継のEPLが主流となっていますが、CPLの設計思想は現在のオープンソースライセンスにも大きな影響を与えています。企業での利用を検討する際は、法務部門と相談しながら適切な運用を行うことが重要です。


用語解説

※1 ウィークコピーレフト:改変したソースコードの公開義務はあるが、リンクするだけの場合は公開義務がないコピーレフト。LGPL、MPLなども同様の性質を持つ。

※2 EPL(Eclipse Public License):CPLを基に改良されたライセンス。Eclipse Foundationが管理し、より現代的な要求に対応している。


この記事は一般的な情報提供を目的としており、法的アドバイスではありません。企業での利用については、必ず法務部門や専門家にご相談ください。