はじめに
オープンソースソフトウェアの世界で注目を集めているBSD+Patentライセンス。従来のBSDライセンスに特許条項を追加したこのライセンスは、現代のソフトウェア開発における特許問題に対応した新しい選択肢として期待されています。
今回は、BSD+Patentライセンスの基本から実際の使い方まで、わかりやすく解説します。
BSD+Patentライセンスとは
BSD+Patentライセンス(正式名称:BSD-2-Clause Plus Patent License)は、Open Source Initiativeによって承認された比較的新しいオープンソースライセンスです。
従来のBSD-2-Clauseライセンスをベースに、明示的な特許ライセンス条項を追加したものです。
主な特徴
1. BSD-2-Clauseライセンスの継承
- シンプルで理解しやすい文面
- 商用利用が可能
- 改変・再配布が自由
- クローズドソース※1での利用も可能
2. 明示的な特許ライセンス
- 貢献者から利用者への特許ライセンス付与
- 特許紛争のリスク軽減
- 特許トロール※2対策
3. GPLとの互換性について
GPLとの互換性については複雑な法的議論があり、プロジェクトによって解釈が分かれる場合があります。
GPL v2・v3いずれについても、組み合わせを検討する際は法的専門家に相談することを強く推奨します。
BSD+Patentライセンスの全文
以下に公式のBSD+Patentライセンス全文を掲載します(BSD+Patent – Open Source Initiative より):
BSD-2-Clause Plus Patent License
Copyright (c) <YEAR> <COPYRIGHT HOLDERS>
Redistribution and use in source and binary forms, with or without modification, are permitted provided that the following conditions are met:
1. Redistributions of source code must retain the above copyright notice, this list of conditions and the following disclaimer.
2. Redistributions in binary form must reproduce the above copyright notice, this list of conditions and the following disclaimer in the documentation and/or other materials provided with the distribution.
Subject to the terms and conditions of this license, each copyright holder and contributor hereby grants to those receiving rights under this license a perpetual, worldwide, non-exclusive, no-charge, royalty-free, irrevocable (except for failure to satisfy the conditions of this license) patent license to make, have made, use, offer to sell, sell, import, and otherwise transfer this software, where such license applies only to those patent claims, already acquired or hereafter acquired, licensable by such copyright holder or contributor that are necessarily infringed by:
(a) their Contribution(s) (the licensed copyrights of copyright holders and non-copyrightable additions of contributors, in source or binary form) alone; or
(b) combination of their Contribution(s) with the work of authorship to which such Contribution(s) was added by such copyright holder or contributor, if, at the time the Contribution is added, such addition causes such combination to be necessarily infringed. The patent license shall not apply to any other combinations which include the Contribution.
Except as expressly stated above, no rights or licenses from any copyright holder or contributor is granted under this license, whether expressly, by implication, estoppel or otherwise.
DISCLAIMER
THIS SOFTWARE IS PROVIDED BY THE COPYRIGHT HOLDERS AND CONTRIBUTORS "AS IS" AND ANY EXPRESS OR IMPLIED WARRANTIES, INCLUDING, BUT NOT LIMITED TO, THE IMPLIED WARRANTIES OF MERCHANTABILITY AND FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE ARE DISCLAIMED. IN NO EVENT SHALL THE COPYRIGHT HOLDERS OR CONTRIBUTORS BE LIABLE FOR ANY DIRECT, INDIRECT, INCIDENTAL, SPECIAL, EXEMPLARY, OR CONSEQUENTIAL DAMAGES (INCLUDING, BUT NOT LIMITED TO, PROCUREMENT OF SUBSTITUTE GOODS OR SERVICES; LOSS OF USE, DATA, OR PROFITS; OR BUSINESS INTERRUPTION) HOWEVER CAUSED AND ON ANY THEORY OF LIABILITY, WHETHER IN CONTRACT, STRICT LIABILITY, OR TORT (INCLUDING NEGLIGENCE OR OTHERWISE) ARISING IN ANY WAY OUT OF THE USE OF THIS SOFTWARE, EVEN IF ADVISED OF THE POSSIBILITY OF SUCH DAMAGE.
このライセンスは、従来のBSD-2-Clauseライセンスに特許条項を追加することで、現代のソフトウェア開発における特許リスクに対応しています。
何ができるのか
自由な利用
- 個人利用・商用利用問わず使用可能
- 改変・カスタマイズが自由
- 他のプロジェクトへの組み込み
配布・再配布
- 元のソースコードの配布
- 改変したバージョンの配布
- プロプライエタリソフトウェアの一部として配布
クローズドソースでの利用
- ソースコードを公開せずに商用製品に組み込み可能
- プロプライエタリソフトウェア※3(商用ソフトウェア)との組み合わせが自由
特許ライセンスの享受
- 貢献者が持つ関連特許の使用権を自動的に取得
- 特許侵害リスクの軽減
- より安全な商用利用
特許条項の詳細
特許ライセンスの範囲
特許ライセンスは以下の場合に適用されます:
- 貢献者のコントリビューション単体による特許侵害
- コントリビューションと既存コードの組み合わせによる特許侵害
特許ライセンスの特徴
- 永続的(perpetual):期限なし
- 世界規模(worldwide):地域制限なし
- 非独占的(non-exclusive):他者への同様ライセンス可能
- 無料(no-charge, royalty-free):料金不要
- 取消不可(irrevocable):条件違反時を除き取消不可
注意すべき点
1. 無保証
BSD+Patentライセンスも「AS IS」条項により、ソフトウェアの品質や動作について一切保証されません。
2. 免責事項
開発者は、ソフトウェアの使用によって生じた損害について責任を負いません。
3. 必須事項の遵守
著作権表示とライセンス条文の同梱は必須です。これを怠ると著作権侵害になる可能性があります。
4. 特許条項の限定
特許ライセンスは貢献者の特許にのみ適用され、第三者の特許は対象外です。
他のライセンスとの比較
ライセンス | 特許条項 | ソース公開義務 | 主な特徴 |
---|---|---|---|
BSD+Patent | 明示的 | なし | BSD-2-Clauseに特許保護を追加 |
Apache 2.0 | 明示的 | なし | より詳細な特許条項・企業利用に人気 |
MIT | なし | なし | 最もシンプルで制約が少ない |
BSD-2-Clause | なし | なし | シンプルだが特許リスクあり |
GPL v3 | 明示的 | あり | 改変版も必ずオープンソース化 |
実際の使用例
BSD+Patentライセンスはまだ比較的新しいライセンス(2017年承認)ですが、特許を重視する重要なプロジェクトで採用されています:
- TianoCore EDK II – Intel主導のUEFI(統合拡張ファームウェアインターフェース)の参照実装。現代のPC、サーバー、組み込みシステムのファームウェア開発環境として広く使用されている重要なインフラプロジェクト
- 企業の内部プロジェクト – 特許リスクを懸念する企業での採用が増加中
- 新興プロジェクト – 特許問題を意識した新規オープンソースプロジェクト
注意: ReactはFacebook独自の「BSD+Patents」ライセンスを使用していましたが、これは現在のOSI承認「BSD+Patent」ライセンスとは全く別物です。
開発者として気をつけること
プロジェクトでBSD+Patentライセンスを採用する場合
1. LICENSEファイルの作成
- プロジェクトルートに「LICENSE」ファイルを作成
- BSD+Patentライセンス全文をコピー
<YEAR>
を現在の年(例:2024)に置換<COPYRIGHT HOLDERS>
を自分の名前または組織名に置換
2. README.mdでの表示
## License
This project is licensed under the BSD-2-Clause Plus Patent License - see the [LICENSE](LICENSE) file for details.
3. 特許の確認
- 自分または組織が関連特許を持っているかを確認
- 特許ライセンス付与の影響を理解
- 必要に応じて法的助言を求める
BSD+Patentライセンスのソフトウェアを利用する場合
1. ライセンス確認の手順
- GitHubリポジトリのLICENSEファイルを確認
- SPDX識別子「BSD-2-Clause-Patent」で検索
- 不明な場合は作者に問い合わせ
2. 配布時の対応
- 使用したライブラリのLICENSEファイルを自分のプロジェクトに同梱
- 著作権表示を削除・改変しない
- 特許ライセンスの恩恵を享受
まとめ
BSD+Patentライセンスは、従来のBSDライセンスの簡潔性を保ちながら、現代のソフトウェア開発における特許問題に対応した進歩的なライセンスです。特に企業環境での利用や、特許リスクを懸念するプロジェクトにおいて、従来のBSDライセンスやMITライセンスの代替選択肢として注目されています。
開発者として、特許問題の重要性を理解し、プロジェクトの性質や利用想定に応じてライセンスを選択することが重要です。特に商用利用を前提とするプロジェクトでは、明示的な特許ライセンスを含むBSD+Patentライセンスの採用を検討する価値があるでしょう。
用語解説
※1 クローズドソース:ソースコードが一般に公開されていないソフトウェア。企業の機密情報として扱われる。
※2 特許トロール:自ら製品を開発せず、特許権のみを取得・購入して他社に対して特許侵害訴訟を起こし、ライセンス料や和解金を得ることを目的とする個人・企業。
※3 プロプライエタリソフトウェア:特定の企業や個人が所有権を持つソフトウェア。ライセンス料を支払って使用権を購入し、ソースコードの閲覧や改変は制限される。例:Microsoft Office、Adobe Photoshop、Windows OS。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、法的アドバイスではありません。具体的な法的問題については、専門家にご相談ください。