はじめに
BSDライセンスは「MITライセンスと似ている」と言われることが多いですが、実際に原文を読んでみると、その構造や条件には独自の特徴があります。
この記事では、BSDライセンス(3条項BSD)の原文を一文ずつ丁寧に読み解いていきます。
「MITライセンスとどう違うのか?」「なぜこの条項が追加されているのか?」をわかりやすく解説します。
※BSDライセンスの概要、種類の比較、実践的な使い方については、BSDライセンスとは?種類と特徴を完全解説をご覧ください。
BSDライセンス原文・和訳
原文を確認したい方はこちら:
原文(3条項BSD):
https://opensource.org/license/bsd-3-clause
日本語訳:
https://licenses.opensource.jp/BSD-3-Clause/BSD-3-Clause
以下では、3条項BSDライセンスの原文を日本語訳とともにブロックごとに分けて、それぞれをわかりやすく解説していきます。
ブロック1: 前提条件の宣言
原文:
Redistribution and use in source and binary forms, with or without modification, are permitted provided that the following conditions are met:
和訳:
ソースコード形式およびバイナリ形式での再配布および使用は、改変の有無にかかわらず、以下の条件が満たされる場合に許可されます。

新人君
これって、MITライセンスと似ていますね。

ossan
そうだね!基本的な考え方は同じで「自由に使っていいよ」なんだけど、BSDライセンスは最初から「条件がありますよ」という書き方をしているんだ。
注目してほしいのは:
- ソースコード形式 – プログラムの元のコードのまま
- バイナリ形式 – コンパイルした実行ファイルなど
- 改変の有無にかかわらず – そのままでも、変更を加えても
どの形でも自由に使えるし配布できる、という宣言だね。

新人君
MITライセンスでは「use, copy, modify…」と具体的に書いてありましたが、BSDでは書いてないんですか?

ossan
良い質問だね!BSDライセンスは「再配布と使用」とシンプルに書いているけど、その中に複製や改変、販売なども含まれると解釈されるんだ。法的には同じくらい自由なライセンスだよ。
ブロック2: 条件1「ソースコード配布時の条件」
原文:
- Redistributions of source code must retain the above copyright notice, this list of conditions and the following disclaimer.
和訳:
- ソースコード形式で再配布する場合、上記の著作権表示、この条件リスト、および以下の免責事項を保持しなければなりません。

新人君
これはMITライセンスと同じですね!

ossan
その通り!ソースコードを配る時は、次の3つをセットで残してね、という条件だよ:
- 著作権表示 – 「Copyright (c) 2024 ○○」など
- 条件リスト – この3つの条件すべて
- 免責事項 – 後で出てくる「保証なし・責任なし」の文章
例えば、GitHubでBSDライセンスのコードをforkして改変して公開する場合、元のLICENSEファイルをそのまま残しておけばOKということだね。
ブロック3: 条件2「バイナリ配布時の条件」
原文:
2. Redistributions in binary form must reproduce the above copyright notice, this list of conditions and the following disclaimer in the documentation and/or other materials provided with the distribution.
和訳:
2. バイナリ形式で再配布する場合、配布物に付属するドキュメントおよび/またはその他の資料に、上記の著作権表示、この条件リスト、および以下の免責事項を再現しなければなりません。

新人君
あれ?これってソースコードじゃない場合ってことですか?

ossan
そう!これがBSDライセンスの大きな特徴なんだ。
例えば:
- スマホアプリ – コンパイル済みのアプリ
- Webサービス – サーバー上で動いているプログラム
- 組み込み機器 – ルーターやIoT機器のファームウェア
こういう「ソースコードは配布しないけど、プログラムとして使っている」場合でも、ライセンス情報を記載する義務があるんだ。

新人君
具体的にどこに書けばいいんですか?

ossan
「ドキュメントおよび/またはその他の資料」とあるから、例えば:
- アプリの「設定」→「ライセンス情報」画面
- Webサービスの「About」ページ
- ユーザーマニュアルのライセンスセクション
- READMEファイルやドキュメント
ユーザーがアクセスできる場所に記載すればOK。
MITライセンスでも同様の義務があるけど、BSDは「バイナリ形式」と明示的に書いているのが特徴だね。
ブロック4: 条件3「名前の無断使用禁止」
原文:
3. Neither the name of the copyright holder nor the names of its contributors may be used to endorse or promote products derived from this software without specific prior written permission.
和訳:
3. 著作権者の名前もその貢献者の名前も、事前の書面による明示的な許可なしに、このソフトウェアから派生した製品を推薦または宣伝するために使用してはなりません。

新人君
これは何のための条件ですか?

ossan
これがBSDライセンス独自の条項で、とても重要なんだ!3条項BSDと呼ばれる理由もこれがあるからだよ。
具体的には:
- 「○○大学が開発したライブラリを使用」と宣伝に使う
- 「××氏推薦!」と勝手に書く
- 「△△プロジェクト公認」と謳う
こういうのは明示的な許可がない限り禁止ということ。

新人君
でも「○○を使用しています」と書くのはダメなんですか?

ossan
良い質問だね!「使用している」という事実を述べるのはOK。ダメなのは:
- ❌ 「○○大学推薦!」(推薦されていないのに)
- ❌ 「××氏監修」(監修していないのに)
- ✅ 「○○ライブラリを使用」(事実の記載)
- ✅ 「BSDライセンスのコンポーネント使用」(事実の記載)
つまり、作者や組織があなたの製品を承認・推薦しているかのように見せるのが禁止されているんだ。

新人君
なぜこの条項が必要なんですか?

ossan
例えば、有名大学が開発したライブラリを使って誰かが怪しい製品を作って「○○大学の技術採用!」と宣伝したら、大学の評判が傷つくかもしれないよね。この条項は、作者や組織のブランドと評判を守るためにあるんだ。特に企業や大学がオープンソースを公開する際、この保護があると安心なんだよ。
ブロック5:「保証はないよ」の部分
原文:
THIS SOFTWARE IS PROVIDED BY THE COPYRIGHT HOLDERS AND CONTRIBUTORS “AS IS” AND ANY EXPRESS OR IMPLIED WARRANTIES, INCLUDING, BUT NOT LIMITED TO, THE IMPLIED WARRANTIES OF MERCHANTABILITY AND FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE ARE DISCLAIMED.
和訳:
このソフトウェアは著作権者および貢献者によって「現状有姿」で提供され、商品性および特定目的への適合性に関する黙示の保証を含むがこれに限定されない、明示的または黙示的ないかなる保証も放棄されます。

新人君
これはMITライセンスと同じですね。

ossan
そう!基本的な意味は同じで:
- 「現状有姿」(AS IS) – 今ある状態のまま提供
- 商品性の保証なし – 「ちゃんと動く」とは保証しない
- 特定目的への適合性の保証なし – 「あなたの目的に合う」とは保証しない
ソフトウェア自体の品質について、何も約束していないということだね。作者は好意で無料公開しているから、「完璧に動きます」とは約束できない。使う側も「自己責任で使います」と理解して使う、という関係なんだよ。
ブロック6:「責任は取れないよ」の部分
原文:
IN NO EVENT SHALL THE COPYRIGHT HOLDER OR CONTRIBUTORS BE LIABLE FOR ANY DIRECT, INDIRECT, INCIDENTAL, SPECIAL, EXEMPLARY, OR CONSEQUENTIAL DAMAGES (INCLUDING, BUT NOT LIMITED TO, PROCUREMENT OF SUBSTITUTE GOODS OR SERVICES; LOSS OF USE, DATA, OR PROFITS; OR BUSINESS INTERRUPTION) HOWEVER CAUSED AND ON ANY THEORY OF LIABILITY, WHETHER IN CONTRACT, STRICT LIABILITY, OR TORT (INCLUDING NEGLIGENCE OR OTHERWISE) ARISING IN ANY WAY OUT OF THE USE OF THIS SOFTWARE, EVEN IF ADVISED OF THE POSSIBILITY OF SUCH DAMAGE.
和訳:
いかなる場合においても、著作権者および貢献者は、このソフトウェアの使用から何らかの形で生じた、直接的、間接的、偶発的、特別、懲罰的、結果的損害(代替品またはサービスの調達、使用機会の喪失、データの喪失、利益の喪失、事業の中断を含むがこれらに限定されない)について、契約責任、厳格責任、不法行為(過失を含む)その他いかなる責任理論に基づくかを問わず、たとえそのような損害の可能性について知らされていたとしても、一切の責任を負いません。

新人君
これ、MITライセンスよりずっと長いですね!

ossan
そうなんだ!BSDライセンスはどんな種類の損害について責任を負わないかを、より詳しく列挙しているんだよ。
具体的には:
- 直接的損害 – ソフトウェアのバグで直接起きた損害
- 間接的損害 – 二次的に発生した損害
- 偶発的損害 – 予期しない事故的な損害
- 結果的損害 – 結果として生じた損害
さらに括弧内で具体例も挙げているんだ:
- データの喪失
- 利益の損失
- 事業の中断

新人君
「たとえそのような損害の可能性について知らされていたとしても」って、厳しくないですか?

ossan
これは「バグがあるって知っていても責任取れないよ」という意味で、確かに厳しく聞こえるね。でも:
- 作者は好意で無償公開している
- 使う側は自己責任で使うと理解している
- だからこそ自由に使える
という関係性なんだ。もし保証や責任を求めるなら、有償のサポート契約が必要になるよね。
補足:2条項BSDと4条項BSD
2条項BSD(Simplified BSD)

新人君
「2条項BSD」というのも聞いたことがあるんですが、何が違うんですか?

ossan
2条項BSDは、さっき説明した第3条項(名前の無断使用禁止)がないバージョンなんだ。
- より自由度が高い – 宣伝での名前使用も制限されない
- MITライセンスに近い – 実質的にほぼ同じ自由度
ブランド保護が不要で、最大限の自由を提供したい場合に選ばれるよ。
4条項BSD(歴史的参考)

ossan
昔は「広告条項」があったんだけど、実用性の問題で1999年にカリフォルニア大学バークレー校が正式に削除したんだ。
当時の広告条項(第3条項):
All advertising materials mentioning features or use of this software must display the following acknowledgement: This product includes software developed by [organization].
(全ての広告資料に謝辞を表示する義務)

ossan
問題点:
- すべての広告に謝辞を記載する義務 → 実用的でない
- 複数のライブラリを使うと謝辞が膨大に → 管理不能
- GPLライセンスと互換性がない → エコシステムの分断
だから今は4条項BSDは使わないのが常識になっているよ。
まとめ
BSDライセンスの原文を読み解いてきましたが、いかがでしたか?
重要なポイントをおさらい:
- 基本的な自由度: MITライセンスと同様、ほぼ何でもできる
- 3つの条件:
- ソースコード配布時: 著作権表示とライセンス文を保持
- バイナリ配布時: ドキュメント等にライセンス情報を記載
- 名前の無断使用禁止: 推薦・宣伝に勝手に名前を使わない
- 保証なし: ソフトウェアの品質は保証されない
- 免責: 使用による損害の責任も負わない
BSDライセンスは「自由だけど自己責任」というMITライセンスと似ていながら、作者や組織のブランドを保護する条項が加わっているのが大きな特徴です。
原文を理解することで、BSDライセンスをより安心して使えるようになったはずです。ライセンスを正しく理解して、オープンソースの世界を楽しみましょう!
この記事は一般的な情報提供を目的としており、法的アドバイスではありません。具体的な法的問題については、専門家にご相談ください。