はじめに

前編では、Apache-2.0ライセンスの第1条〜第4条を通して、「何ができるのか」という権利付与の部分を見てきました。特に特許ライセンス(第3条)がApache-2.0の最大の特徴でしたね。

後編では、第5条〜第9条を解説します。ここでは:

  • コントリビューション(貢献)を提出する時のルール
  • 商標の使用制限
  • 保証の免責と責任の制限

といった、トラブルを避けるための重要な条項が含まれています。

※前編をまだお読みでない方は、先に前編:権利付与編をご覧ください。

前編のおさらい

前編で学んだ重要ポイント:

  • 第1条:用語の定義(特に「派生著作物」の範囲)
  • 第2条:著作権ライセンス(自由な使用・改変・配布)
  • 第3条:特許ライセンス(特許保護と相互防衛)
  • 第4条:再配布の条件(LICENSE、変更明示、NOTICE)

これらを踏まえて、後編を読み進めていきましょう。

第5条:コントリビューションの提出

原文:

Unless You explicitly state otherwise, any Contribution intentionally submitted for inclusion in the Work by You to the Licensor shall be under the terms and conditions of this License, without any additional terms or conditions. Notwithstanding the above, nothing herein shall supersede or modify the terms of any separate license agreement you may have executed with Licensor regarding such Contributions.

和訳:

あなたが明示的に別段の定めをしない限り、あなたによってライセンサーに著作物への組み込みを意図的に提出されたコントリビューションは、追加の条項なしに、このライセンスの条項に従うものとします。上記にかかわらず、ここに記載されたいかなる内容も、そのようなコントリビューションに関してあなたがライセンサーと締結した可能性のある個別のライセンス契約の条項に優先したり、変更したりするものではありません。

新人君

これはプルリクエストを送る時のことですか?

ossan

その通り!この条項は「コントリビューターの権利と義務」を定めているんだ。

何を意味しているのか

基本ルール: プロジェクトにコードを提出する(プルリク、パッチなど)と:

  • 自動的にApache-2.0ライセンスで提供したことになる
  • 特に何も言わなければ、追加の条件はつけられない

新人君

「明示的に別段の定めをしない限り」とは?

ossan

例えば、プルリクエストで「このコードは○○ライセンスです」と明記すれば別だけど、普通は何も書かないよね。その場合は自動的にApache-2.0になる、ということだよ。

なぜこのルールがあるのか

問題となりうるケース:

  1. あなたがプロジェクトにコードを提出
  2. そのコードがマージされる
  3. 後日、あなたが「私のコードは別のライセンスです!」と主張

新人君

それは困りますね…

ossan

そう!だから第5条で「提出した時点でApache-2.0として扱われる」と明確にしているんだ。これによってプロジェクトのライセンスの一貫性が保たれるんだよ。

個別契約は有効

原文の後半部分:

nothing herein shall supersede or modify the terms of any separate license agreement you may have executed with Licensor

ossan

これは「個別の契約があれば、それが優先される」という意味。

例:

  • 企業が大規模なコントリビューションをする場合
  • 事前に Contributor License Agreement (CLA) を結ぶ場合

こういった個別の契約は、この第5条より優先されるんだ。

第6条:商標(Trademarks)

原文:

This License does not grant permission to use the trade names, trademarks, service marks, or product names of the Licensor, except as required for reasonable and customary use in describing the origin of the Work and reproducing the content of the NOTICE file.

和訳:

このライセンスは、著作物の起源を説明したり、NOTICEファイルの内容を複製したりする際に合理的かつ慣習的に使用する場合を除き、ライセンサーの商号、商標、サービスマーク、または製品名を使用する許可を付与するものではありません。

新人君

商標?コードとは別の話ですか?

ossan

そう!コードの使用は自由だけど、プロジェクト名やロゴの使用には制限があるんだ。

何ができて、何ができないのか

✅ できること(合理的かつ慣習的な使用):

  • 「このソフトウェアはApache HTTP Serverを使用しています」と表記
  • NOTICEファイルに記載されている内容をそのまま表示
  • 「Apache Sparkベース」と技術的な事実を述べる

❌ できないこと:

  • 自分の製品を「Apache ○○」と名付ける
  • Apacheのロゴを自社製品に使う
  • 公式プロジェクトと誤解されるような宣伝

新人君

なぜこんな制限があるんですか?

ossan

いくつか理由があるんだ:

  1. ブランドの保護: 公式プロジェクトと非公式の派生プロジェクトを区別するため
  2. 誤解の防止: 「Apache認証済み」のような誤った印象を与えないため
  3. 品質管理: 低品質な派生製品がブランドを傷つけることを防ぐため

第7条:保証の免責(Disclaimer of Warranty)

原文:

Unless required by applicable law or agreed to in writing, Licensor provides the Work (and each Contributor provides its Contributions) on an “AS IS” BASIS, WITHOUT WARRANTIES OR CONDITIONS OF ANY KIND, either express or implied, including, without limitation, any warranties or conditions of TITLE, NON-INFRINGEMENT, MERCHANTABILITY, or FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE. You are solely responsible for determining the appropriateness of using or redistributing the Work and assume any risks associated with Your exercise of permissions under this License.

和訳:

適用法で義務付けられている場合または書面で合意されている場合を除き、ライセンサーは著作物を(そして各コントリビューターはそのコントリビューションを)「現状有姿」で提供し、明示的であるか黙示的であるかを問わず、権原、非侵害性、商品性、または特定目的への適合性の保証または条件を含むがこれらに限定されず、いかなる種類の保証または条件も行いません。あなたは、著作物の使用または再頒布の適切性を判断する単独の責任を負い、このライセンスの下でのあなたの許可の行使に関連するいかなるリスクも引き受けます。

新人君

 MITライセンスでも似たような文章がありましたね。

ossan

そう!「現状有姿(AS IS)」という部分は同じだね。でもApache-2.0の方がより詳しく書かれているんだ。

「現状有姿」とは

簡単に言うと: ソフトウェアは「今ある状態のまま」提供され、作者は何も保証しない、ということ。

具体的には:

  • 権原(TITLE): 正当な所有権があるという保証はない
  • 非侵害性(NON-INFRINGEMENT): 他人の権利を侵害していないという保証はない
  • 商品性(MERCHANTABILITY): 商品として使えるという保証はない
  • 特定目的への適合性(FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE): あなたの目的に合うという保証はない

新人君

かなり厳しいですね…

ossan

そう見えるけど、これは「無料で提供する代わり」なんだ。

あなたの責任

原文の重要部分:

You are solely responsible for determining the appropriateness of using or redistributing the Work and assume any risks associated with Your exercise of permissions under this License.

ossan

つまり:

  • 使っていいかどうかは自分で判断する
  • 使った結果のリスクは自分で引き受ける

これが「自己責任」の原則だよ。


第8条:責任の制限(Limitation of Liability)

原文:

In no event and under no legal theory, whether in tort (including negligence), contract, or otherwise, unless required by applicable law (such as deliberate and grossly negligent acts) or agreed to in writing, shall any Contributor be liable to You for damages, including any direct, indirect, special, incidental, or consequential damages of any character arising as a result of this License or out of the use or inability to use the Work (including but not limited to damages for loss of goodwill, work stoppage, computer failure or malfunction, or any and all other commercial damages or losses), even if such Contributor has been advised of the possibility of such damages.

和訳:

いかなる場合も、不法行為(過失を含む)、契約、その他いかなる法理論の下でも、適用法(故意および重大な過失行為など)で義務付けられている場合または書面で合意されている場合を除き、いかなるコントリビューターも、このライセンスの結果として、または著作物の使用もしくは使用不能から生じる、直接的、間接的、特別、偶発的、または結果的な損害を含む損害について、そのようなコントリビューターがそのような損害の可能性について知らされていた場合であっても、あなたに対して責任を負いません。

新人君

第7条と何が違うんですか?

ossan

いい質問だね!

  • 第7条 = ソフトウェア自体の品質は保証しない
  • 第8条 = 使った結果の損害について責任を負わない

つまり、第7条は「ソフトウェアの状態」について、第8条は「使った結果」についての話なんだ。

具体的な例

たとえば、Apache-2.0のライブラリにバグがあって、会社のシステムがダウンし損害が出た場合でも、コントリビューターに損害賠償を請求できない。

新人君

それってリスクが高いんじゃ…

ossan

そう見えるよね。でも考えてみて:

  1. 無料で提供されている
  2. ソースコードは公開されている(自分で検証できる)
  3. コミュニティでレビューされている

だから、実際には商用ソフトウェアよりも信頼できる場合も多いんだ。

例外:故意・重過失

原文の重要部分:

unless required by applicable law (such as deliberate and grossly negligent acts)

わざと、または極めて重大な過失で損害を与えた場合は、法律によって責任を負う可能性がある。

例: わざとマルウェアを仕込んだ場合などは、責任を負う可能性がある。


第9条:保証または追加的責任の引受

原文:

While redistributing the Work or Derivative Works thereof, You may choose to offer, and charge a fee for, acceptance of support, warranty, indemnity, or other liability obligations and/or rights consistent with this License. However, in accepting such obligations, You may act only on Your own behalf and on Your sole responsibility, not on behalf of any other Contributor, and only if You agree to indemnify, defend, and hold each Contributor harmless for any liability incurred by, or claims asserted against, such Contributor by reason of your accepting any such warranty or additional liability.

和訳:

著作物または派生著作物を再頒布する際、あなたは、このライセンスと整合する、サポート、保証、補償、またはその他の責任義務および/または権利の引き受けを提供し、その対価として料金を請求することを選択できます。ただし、そのような義務を引き受ける際、あなたは、他のコントリビューターに代わってではなく、自分自身の名において、かつ自己の単独の責任で行動することができるのみであり、また、あなたがそのような保証または追加的責任を引き受けたことを理由として、そのようなコントリビューターに対して生じた、またはそのようなコントリビューターに対して主張された、いかなる責任についても、各コントリビューターを補償し、弁護し、無害に保つことに同意する場合に限られます。

新人君

これは何を言っているんですか?複雑すぎます…

ossan

確かに複雑だね!簡単に言うと、「有償サポートを提供してもいいよ」という話なんだ。

ビジネスモデルとしての活用

Apache-2.0ライセンスのソフトウェアを使って、こんなビジネスができる:

  • ソフトウェア自体は無料で提供
  • サポート契約や保証を有料で販売
  • エンタープライズ版として販売

新人君

でも、第7条と第8条で「保証しない」「責任を負わない」って言ってましたよね?

ossan

そう!だから第9条では、こう言っているんだ:

重要な条件

1. 自分の責任で行う

You may act only on Your own behalf and on Your sole responsibility, not on behalf of any other Contributor

オリジナルの作者の代わりではなく、あなた自身の名前で保証を提供する。

2. 元の作者を守る義務

You agree to indemnify, defend, and hold each Contributor harmless

もし何か問題が起きても、オリジナルの作者には責任が及ばないようにする。

新人君

なるほど!オープンソースでもビジネスができるんですね。

ossan

そう!Apache-2.0は、こういったビジネスモデルを明示的に許可しているんだ。これも企業に好まれる理由の一つだよ。

実践チェックリスト

ここまでの内容を踏まえて、実務で使えるチェックリストを用意しました。

Apache-2.0ソフトウェアを使う・配布する場合

基本確認:

  • [ ] LICENSEファイルを確認(Apache-2.0であることを確認)
  • [ ] NOTICEファイルの有無を確認
  • [ ] 依存ライブラリのライセンスも確認(GPLv2との組み合わせは不可)

配布時の対応:

  • [ ] LICENSEファイルを含める
  • [ ] NOTICEファイルがあれば、適切な場所に配置
  • [ ] 改変した場合は、変更した旨をファイルに記載
  • [ ] 元の著作権表示を保持

Apache-2.0で自分のプロジェクトを公開する場合

必須ファイル:

  • [ ] LICENSEファイルを作成(Apache-2.0全文をコピー)
  • [ ] README.mdにライセンス情報を記載
  • [ ] 必要に応じてNOTICEファイルを作成

ソースファイルへのヘッダー(推奨):

/*
 * Copyright [yyyy] [name of copyright owner]
 *
 * Licensed under the Apache License, Version 2.0 (the "License");
 * you may not use this file except in compliance with the License.
 * You may obtain a copy of the License at
 *
 *     http://www.apache.org/licenses/LICENSE-2.0
 *
 * Unless required by applicable law or agreed to in writing, software
 * distributed under the License is distributed on an "AS IS" BASIS,
 * WITHOUT WARRANTIES OR CONDITIONS OF ANY KIND, either express or implied.
 * See the License for the specific language governing permissions and
 * limitations under the License.
 */

まとめ:Apache-2.0ライセンスの全体像

前編と後編を通して、Apache-2.0ライセンスの全9条を見てきました。

構造のおさらい

権利付与(第1〜4条)

  • 自由な使用・改変・配布
  • 特許保護(最重要)
  • 再配布時の義務

義務と責任(第5〜9条)

  • コントリビューションのルール
  • 商標の制限
  • 保証の免責
  • 責任の制限
  • 有償サポートの許可

最後に

Apache-2.0ライセンスは、一見複雑に見えますが、その複雑さには理由があります:

  1. 特許保護 – 企業での安心な利用
  2. 明確な義務 – 法的な曖昧さを排除
  3. 柔軟性 – ビジネスモデルの構築が可能

原文を理解することで、Apache-2.0ライセンスのソフトウェアをより安心して使い、また自分のプロジェクトで採用する際の判断材料になったはずです。

ライセンスを正しく理解して、オープンソースの世界を楽しみましょう!


この記事は一般的な情報提供を目的としており、法的アドバイスではありません。具体的な法的問題については、専門家にご相談ください。