はじめに

第1部では前文と基本定義、第2部では改変と配布の条件を見てきました。最終回となる第3部では、GPL v2の残りの条項を解説します。

この記事で扱う内容:

  • 第5条: ライセンスの受諾(署名不要の仕組み)
  • 第6条: 自動的な権利継承
  • 第7条: 追加制限の禁止
  • 第8条: 地域的制限への対処
  • 第9条: FSFによる改訂権
  • 第10条: バージョン選択(v2 only vs v2 or later)
  • 第11-12条: 無保証条項(最重要の免責事項)

権利関係の仕組みと、「保証はないよ」という重要な免責条項を理解して、GPL v2の全体像を完成させましょう。


第5条: ライセンスの受諾

GPL v2には契約書のような署名欄がありません。では、どうやってこのライセンスを「受諾」するのでしょうか?それが第5条で説明されています。

原文:

You are not required to accept this License, since you have not signed it. However, nothing else grants you permission to modify or distribute the Program or its derivative works. These actions are prohibited by copyright law if you do not accept this License. Therefore, by modifying or distributing the Program (or any work based on the Program), you indicate your acceptance of this License to do so, and all its terms and conditions for copying, distributing or modifying the Program or works based on it.

和訳:

あなたは本許諾書に署名していないため、本許諾書を受諾する必要はありません。しかし、プログラムまたはその派生作品を改変または配布する許可を与えるものは、他にありません。これらの行為は、本許諾書を受諾しない場合、著作権法によって禁止されています。したがって、プログラム(またはプログラムを基にした作品)を改変または配布することによって、あなたは、そうするための本許諾書、およびプログラムまたはそれを基にした作品の複製、配布、改変に関するすべての条項と条件の受諾を示します。

新人君

署名しなくていいんですか?でも、どうやって「同意した」ことになるんですか?

ossan

これがGPLのユニークな仕組みなんだ。段階を追って説明するね。

著作権法の壁と黙示的な受諾

ossan

まず、著作権法では、デフォルトで:

  • ❌ 他人の著作物を改変してはいけない
  • ❌ 他人の著作物を配布してはいけない

これらは著作権侵害になる。でも、GPL v2がそれを許可してくれる。

あなたの行動              法的な意味
────────────────────────────────────
ダウンロード              受諾不要
インストール              受諾不要
実行・使用                受諾不要
────────────────────────────────────
改変                      ← この瞬間にGPL v2を受諾
配布                      ← この瞬間にGPL v2を受諾

新人君

なるほど!「使うだけ」なら受諾不要だけど、「改変・配布」したら自動的に受諾したことになるんですね。

ossan

その通り!これを「黙示的な受諾(implied acceptance)」と呼ぶんだ。署名や明示的な同意がなくても、行動によって同意したとみなされる。簡便で、かつ法的な強制力もある仕組みなんだよ。


第6条: 自動的な権利継承

第5条で「行動による受諾」を学びましたが、第6条では、配布された先の人たちにどう権利が伝わるかを説明しています。

原文:

Each time you redistribute the Program (or any work based on the Program), the recipient automatically receives a license from the original licensor to copy, distribute or modify the Program subject to these terms and conditions. You may not impose any further restrictions on the recipients’ exercise of the rights granted herein. You are not responsible for enforcing compliance by third parties to this License.

和訳:

あなたがプログラム(またはプログラムを基にした作品)を再配布するたびに、受領者は、これらの条項と条件に従ってプログラムを複製、配布、または改変するライセンスを、オリジナルのライセンサーから自動的に受け取ります。あなたは、本許諾書で付与された権利の行使に対して、いかなる追加的な制限も課すことはできません。あなたは、第三者による本許諾書の遵守を強制する責任はありません。

新人君

これもちょっと複雑ですね…

ossan

3つの重要なポイントに分けて説明するよ。

ポイント1: オリジナル作者から直接ライセンスを受ける

GPL v2の仕組み

オリジナル作者 ←─┬─← あなた ←─ 受取人A
                 ├─← 別の人 ←─ 受取人B
                 └─← 誰か ←─ 受取人C

全員が「オリジナル作者」から直接ライセンスを受ける!

ossan

これには重要な意味があるんだ:

  1. 中間者の影響を受けない
    • あなたがライセンス違反しても
    • 受取人の権利は守られる(第4条で見た通り)
  2. ライセンスの連鎖を断ち切る
    • 誰かが権利を失っても、全体には影響しない

ポイント2: 追加制限の禁止

原文の該当部分:

You may not impose any further restrictions on the recipients’ exercise of the rights granted herein.

ossan

これは「あなたは、受け取った人の権利を制限してはいけない」という重要なルールなんだ。

禁止される例

❌ やってはいけないこと:

配布時の追加条件:
「このソフトは商用利用禁止です」          ← GPL v2に反する
「改変版の公開は禁止です」              ← GPL v2に反する
「NDA(秘密保持契約)に署名必須」       ← GPL v2に反する

GPL v2で与えられた自由は、そのまま次の人に渡さないといけない。これがコピーレフトの核心なんだよ。

ポイント3: 遵守の責任は負わない

原文の該当部分:

You are not responsible for enforcing compliance by third parties to this License.

ossan

簡単に言うと「他の人がルールを守るかどうかは、あなたの責任じゃない」ということだよ。

あなた → 受取人A → 受取人B

受取人Bがライセンス違反した場合:
- あなたに責任はない
- 受取人Aにも責任はない
- 責任は受取人Bだけが負う

これは配布者の負担を軽減するための配慮なんだ。


第7条: 追加制限の禁止(詳細版)

第6条で「追加制限を課してはいけない」と学びましたが、第7条ではさらに詳しく、外部の制約がある場合どうするかを説明しています。

原文:

If, as a consequence of a court judgment or allegation of patent infringement or for any other reason (not limited to patent issues), conditions are imposed on you (whether by court order, agreement or otherwise) that contradict the conditions of this License, they do not excuse you from the conditions of this License. If you cannot distribute so as to satisfy simultaneously your obligations under this License and any other pertinent obligations, then as a consequence you may not distribute the Program at all.

和訳:

裁判所の判決または特許侵害の申し立ての結果として、あるいはその他の理由(特許問題に限定されません)により、本許諾書の条件と矛盾する条件が(裁判所の命令、合意、その他によって)あなたに課される場合、それらはあなたを本許諾書の条件から免除しません。本許諾書の下でのあなたの義務と他の関連する義務を同時に満たすように配布できない場合、結果として、あなたはプログラムを全く配布してはなりません。

新人君

これは何を言っているんですか?ちょっと難しいです…

ossan

例えば、特許権者から「配布するならロイヤリティを払え」と言われた場合を考えてみよう。

この場合、2つの義務が対立するんだ:

  • GPL v2の義務: 追加の制限なしで配布しなければならない
  • 特許の条件: ロイヤリティという追加コストが発生

ルール: GPL v2か、配布停止か

原文の該当部分:

If you cannot distribute so as to satisfy simultaneously your obligations under this License and any other pertinent obligations, then as a consequence you may not distribute the Program at all.

ossan

GPL v2のルールは厳格なんだ:

GPL v2の条件を完全に守れる → ✅ 配布OK
GPL v2の条件を守れない    → ❌ 配布禁止(一切配布してはいけない)

新人君

厳しいですね!でも、なぜそこまで厳格なんですか?

ossan

これは「自由の一貫性」を守るためなんだ。もし「部分的な配布」を認めると、一部の人が自由を享受できなくなる。だから、「全員に同じ自由を提供できないなら、配布自体をするな」というのがGPL v2の立場なんだ。


第8条: 地域的制限への対処

第7条の流れを受けて、第8条では特に地理的・法域的な制約について説明しています。

原文:

If the distribution and/or use of the Program is restricted in certain countries either by patents or by copyrighted interfaces, the original copyright holder who places the Program under this License may add an explicit geographical distribution limitation excluding those countries, so that distribution is permitted only in or among countries not thus excluded. In such case, this License incorporates the limitation as if written in the body of this License.

和訳:

特許または著作権で保護されたインターフェースによって、特定の国でプログラムの配布および/または使用が制限されている場合、プログラムを本許諾書の下に置くオリジナルの著作権者は、それらの国を除外する明示的な地理的配布制限を追加することができ、除外されていない国内または国家間でのみ配布が許可されるようにすることができます。そのような場合、本許諾書は、本許諾書の本文に書かれているかのように、その制限を組み込みます。

新人君

これは著作権者が地域制限をかけられるってことですか?

ossan

そう、ただし限定的な状況でのみなんだ。

いつ地域制限が許されるか

条件:

  • 特許または著作権の問題で
  • 法的に特定の国で配布できない場合
  • オリジナルの著作権者のみが制限を追加できる

実装例:

GEOGRAPHIC DISTRIBUTION LIMITATION

Due to patent restrictions in Country X, distribution of 
this program in Country X is explicitly prohibited.

ossan

ただし、この条項はほとんど使われていないんだ。インターネットの時代に地域制限は実効性が低いからね。この条項は、1991年当時の冷戦終結直後の世界情勢を反映しているんだよ。


第9条: FSFによる改訂権

GPL v2は1991年に作られました。しかし、技術は進化し、法律も変わります。そのときどうするか?それが第9条です。

原文:

The Free Software Foundation may publish revised and/or new versions of the General Public License from time to time. Such new versions will be similar in spirit to the present version, but may differ in detail to address new problems or concerns.

Each version is given a distinguishing version number. If the Program specifies a version number of this License which applies to it and “any later version”, you have the option of following the terms and conditions either of that version or of any later version published by the Free Software Foundation. If the Program does not specify a version number of this License, you may choose any version ever published by the Free Software Foundation.

和訳:

Free Software Foundationは、時々、GNU一般公衆利用許諾書の改訂版および/または新版を公開することがあります。そのような新版は、現在の版と精神において類似していますが、新しい問題や懸念に対処するために詳細が異なる場合があります。

各版には、区別するための版番号が与えられます。プログラムが、それに適用される本許諾書の版番号と「any later version(それ以降の版)」を指定している場合、あなたは、その版またはFree Software Foundationによって公開された任意のそれ以降の版のいずれかの条項と条件に従うオプションがあります。プログラムが本許諾書の版番号を指定していない場合、あなたはFree Software Foundationによってこれまでに公開された任意の版を選択できます。

新人君

FSFって何ですか?

ossan

Free Software Foundation(自由ソフトウェア財団)は、リチャード・ストールマンが設立した組織で、GPLを作成・管理している団体だよ。

FSFの特別な権限

ossan

第9条では、FSFに特別な権限が与えられているんだ:

  1. 新版の公開権
    • GPL v2の改訂版を作れる
    • 新しいバージョン(GPL v3など)を作れる
  2. 精神の継続
    • 新版も「フリーソフトウェアの精神」を守る
  3. 詳細の変更
    • 新しい問題に対処できる

第10条: バージョン選択(最重要の選択)

第10条は、GPL v2を使う上で最も重要な選択に関わります。それが「v2 only」か「v2 or later」かという選択です。

2つの選択肢

ossan

プログラムのライセンス表示には、2つのパターンがあるんだ:

パターン1: GPL v2 only

/*
 * This program is free software; you can redistribute it and/or modify
 * it under the terms of the GNU General Public License as published by
 * the Free Software Foundation; version 2 of the License.
 *                                  ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
 *                                  v2のみ!
 */

パターン2: GPL v2 or later

/*
 * This program is free software; you can redistribute it and/or modify
 * it under the terms of the GNU General Public License as published by
 * the Free Software Foundation; either version 2 of the License, or
 * (at your option) any later version.
 *                  ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
 *                  v2以降を選べる!
 */

新人君

これの違いは何ですか?

ossan

この違いは非常に大きいんだ。表で比較してみよう:

項目GPL v2 onlyGPL v2 or later
使えるバージョンGPL v2だけGPL v2, v3など(選択可能)
将来のバージョン使えない使える
Apache-2.0との互換❌ なし✅ あり(v3を選べば)
GPL v3コードとの結合❌ 不可✅ 可能(v3を選べば)
Linux kernelとの互換✅ あり❌ なし
柔軟性低い高い
安定性高い変化する可能性

「GPL v2 only」を選ぶ理由

代表例: Linux kernel

Linux kernelはGPL v2 onlyを採用している

リーナス・トーバルズの理由:

  • GPL v3の理念(DRM対策など)に同意しない
  • 将来FSFが変えられるのを避けたい
  • 現在のバランスを保ちたい

メリット:

  • 条件が変わらない安定性
  • 予測可能性

デメリット:

  • 将来のバージョンアップ不可
  • GPL v3コードと結合できない
  • 新しい問題(特許など)への対応が難しい

「GPL v2 or later」を選ぶ理由

代表例: GNU Emacs, GCC

FSFの推奨:

  • 将来の改善を取り込める
  • 新しい問題に対応できる

メリット:

  • 柔軟性が高い
  • GPL v3の利点(特許保護など)を選択できる

デメリット:

  • 条件が変わる可能性
  • Linux kernel(v2 only)と互換性がなくなる可能性
  • FSFの決定に依存する

先生: 一度決めると変更が難しいから、慎重に決めることが大切だよ。


第11条: 無保証条項

さて、ここから非常に重要な免責条項に入ります。GPL v2でも、MITライセンスと同様に「保証はしないよ」という条項があります。

原文:

BECAUSE THE PROGRAM IS LICENSED FREE OF CHARGE, THERE IS NO WARRANTY FOR THE PROGRAM, TO THE EXTENT PERMITTED BY APPLICABLE LAW. EXCEPT WHEN OTHERWISE STATED IN WRITING THE COPYRIGHT HOLDERS AND/OR OTHER PARTIES PROVIDE THE PROGRAM “AS IS” WITHOUT WARRANTY OF ANY KIND, EITHER EXPRESSED OR IMPLIED, INCLUDING, BUT NOT LIMITED TO, THE IMPLIED WARRANTIES OF MERCHANTABILITY AND FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE. THE ENTIRE RISK AS TO THE QUALITY AND PERFORMANCE OF THE PROGRAM IS WITH YOU. SHOULD THE PROGRAM PROVE DEFECTIVE, YOU ASSUME THE COST OF ALL NECESSARY SERVICING, REPAIR OR CORRECTION.

和訳:

プログラムは無償で許諾されているため、適用される法律が許す範囲で、プログラムに対する保証はありません。書面で別段の定めがある場合を除き、著作権者および/または他の当事者は、プログラムを「現状有姿」で提供し、商品性および特定目的への適合性の黙示の保証を含むがこれに限定されない、明示的または黙示的ないかなる種類の保証もしません。プログラムの品質および性能に関する全てのリスクはあなたにあります。プログラムに欠陥があることが判明した場合、あなたは必要な保守、修理、または訂正の全ての費用を負担します。

新人君

これ、全部大文字で書かれてますね!

ossan

そう!原文では第11条と第12条が全て大文字(ALL CAPS)で書かれているんだ。これは法律文書で「特に重要な免責事項」を強調する伝統的な方法なんだよ。

「現状有姿(AS IS)」の意味

ossan

これはMITライセンスでも見た「現状有姿」だね。

意味:

  • 今ある状態のまま
  • バグがあるかもしれない
  • 完璧だとは保証しない
  • 動くかどうかも保証しない

保証しないこと

1. 明示的保証

  • 「ちゃんと動きます」と明言しない
  • 「バグがありません」とは言わない

2. 黙示的保証

  • 商品性(MERCHANTABILITY): 「商品として売れる品質」という保証なし
  • 特定目的適合性(FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE): 「あなたの目的に合う」という保証なし

リスクは使う側にある

原文の該当部分:

THE ENTIRE RISK AS TO THE QUALITY AND PERFORMANCE OF THE PROGRAM IS WITH YOU.

ossan

これが核心なんだ:

プログラムの品質と性能のリスク
        ↓
    全てあなたが負う

新人君

これってかなり厳しくないですか?

ossan

そうだね。でも、だからこそ:

  • 無償で使える
  • ソースコードが公開されている
  • 自分で直すこともできる
  • コミュニティで協力して改善できる

という「自由」と「自己責任」のバランスなんだ。


第12条: 責任の制限

第11条が「品質の保証はしない」という話だったのに対し、第12条は「使った結果の責任も負わない」という話です。

原文:

IN NO EVENT UNLESS REQUIRED BY APPLICABLE LAW OR AGREED TO IN WRITING WILL ANY COPYRIGHT HOLDER, OR ANY OTHER PARTY WHO MAY MODIFY AND/OR REDISTRIBUTE THE PROGRAM AS PERMITTED ABOVE, BE LIABLE TO YOU FOR DAMAGES, INCLUDING ANY GENERAL, SPECIAL, INCIDENTAL OR CONSEQUENTIAL DAMAGES ARISING OUT OF THE USE OR INABILITY TO USE THE PROGRAM (INCLUDING BUT NOT LIMITED TO LOSS OF DATA OR DATA BEING RENDERED INACCURATE OR LOSSES SUSTAINED BY YOU OR THIRD PARTIES OR A FAILURE OF THE PROGRAM TO OPERATE WITH ANY OTHER PROGRAMS), EVEN IF SUCH HOLDER OR OTHER PARTY HAS BEEN ADVISED OF THE POSSIBILITY OF SUCH DAMAGES.

和訳:

適用される法律で要求される場合または書面で合意された場合を除き、著作権者、または上記で許可されているようにプログラムを改変および/または再配布する可能性のある他の当事者は、プログラムの使用または使用不能から生じる損害(データの損失、データが不正確になること、あなたまたは第三者が被った損失、プログラムが他のプログラムと動作しないことを含むがこれらに限定されません)を含む、一般的、特殊的、付随的、または派生的な損害について、たとえそのような保持者または他の当事者がそのような損害の可能性について知らされていたとしても、いかなる場合もあなたに対して責任を負いません。

新人君

第11条と何が違うんですか?

ossan

違いを整理しよう:

条項内容
第11条ソフトウェア自体の品質保証なしバグがある、動かない
第12条使用結果の責任を負わないデータ消失、損害発生

具体的な例示

原文で特に言及されている例:

1. データの損失(LOSS OF DATA)

例:
- データベースが壊れた
- ファイルが消えた

2. データの不正確化(DATA BEING RENDERED INACCURATE)

例:
- 計算結果が間違っていた
- データが破損した

3. 第三者への損失(LOSSES SUSTAINED BY YOU OR THIRD PARTIES)

例:
- あなたの顧客が損害を受けた
- 取引先に迷惑をかけた

4. 他のプログラムとの非互換(A FAILURE OF THE PROGRAM TO OPERATE WITH ANY OTHER PROGRAMS)

例:
- 既存システムと統合できなかった
- 他のソフトウェアとの連携が失敗

「知らされていても」責任なし

原文の該当部分:

EVEN IF SUCH HOLDER OR OTHER PARTY HAS BEEN ADVISED OF THE POSSIBILITY OF SUCH DAMAGES.

ossan

非常に強力な免責なんだ:

シナリオ:
1. 「このプログラムにはバグがあるかも」と警告を受けた
2. 「使うとデータが消えるかも」と知らされた
3. それでも使った
4. 実際にデータが消えた

結果:
→ それでも作者は責任を負わない

新人君

それって、かなり一方的じゃないですか?

ossan

そう思うかもしれないね。でも考えてみて:

もし責任を負うとしたら:
↓
作者は無償でソフトを公開できない
↓
訴訟リスクが高すぎる
↓
オープンソースが成り立たない

この免責条項があるからこそ、開発者は安心してコードを公開できるんだ。

適用法による制限

原文の該当部分:

UNLESS REQUIRED BY APPLICABLE LAW OR AGREED TO IN WRITING

ossan

ただし、2つの例外があるんだ:

例外1: 適用法で要求される場合

一部の国や地域では:
- 免責条項が無効になる場合がある
- 消費者保護法が優先される

例外2: 書面で合意した場合

例:
- 商用サポート契約を結ぶ
- 保証を別途提供する

新人君

じゃあ、Red Hatのような企業はどうしてるんですか?

ossan

彼らは「別途の契約」で保証を提供しているんだ:

Red Hatのモデル:
- ソフトウェア自体:GPL v2(無保証)
- サポート契約:別契約(有償・保証あり)

これなら、GPL v2の免責条項を維持しつつ、顧客に安心を提供できるんだよ。


まとめ

3回のシリーズを通して、GPL v2の原文を全て読み解いてきました。最終回の第3部で学んだ重要なポイントを振り返りましょう。

第3部で学んだこと

第5条:ライセンスの受諾

  • 署名不要の黙示的受諾
  • 改変・配布した時点で自動的に受諾

第6条:自動的な権利継承

  • オリジナル作者から直接ライセンスを受ける
  • 追加制限の禁止
  • 遵守責任は負わない

第7条:追加制限の禁止(詳細)

  • 外部制約との対立時は配布禁止
  • 全員に同じ自由か、配布しないか

第8条:地域的制限

  • 法的根拠がある場合のみ例外
  • 実務ではほとんど使われない

第9-10条:バージョン管理

  • FSFの改訂権
  • 「v2 only」vs「v2 or later」の重要な選択

第11-12条:無保証・免責条項

  • 「現状有姿」での提供
  • 品質保証なし、損害賠償責任なし
  • 自由と自己責任のバランス

おわりに

GPL v2は、1991年のリリースから30年以上経った今でも、Linux kernelをはじめとする重要なプロジェクトで使われ続けています。

GPL v2が選ばれ続ける理由:

  • シンプルで理解しやすい – GPL v3よりコンパクト
  • 実績がある – 長年の判例と解釈の蓄積
  • 強力なコピーレフト – 自由を確実に保護
  • コミュニティの力 – 多くの開発者が理解している

一方で、現代的な課題もあります:

  • 特許保護の不足
  • DRM・Tivoizationへの対応なし
  • 新しいライセンスとの互換性の問題

これらの問題を理解した上で、プロジェクトの目標に最も適したライセンスを選択することが重要です。

原文を読み解くことで得られたもの:

  • 条文の正確な意味
  • 各条項の意図と背景
  • 実務での適用方法
  • 落とし穴とその回避法

GPL v2の原文を理解することは、単にライセンスを守るためだけでなく、フリーソフトウェアの理念を理解し、オープンソースコミュニティの一員として貢献するための第一歩です。

この知識を活かして、安全にGPL v2を活用し、オープンソースの世界を楽しんでください!


この記事は一般的な情報提供を目的としており、法的アドバイスではありません。具体的な法的問題については、専門家にご相談ください。