はじめに

Apache-2.0ライセンスは、企業での利用を想定して弁護士によって作成された、法的に堅牢なオープンソースライセンスです。MITライセンスと比べると約10倍の長さがあり、特に特許保護という重要な機能が含まれています。

この記事では、Apache-2.0ライセンスの原文を一文ずつ丁寧に読み解いていきます。前編では「何ができるのか」を定義する権利付与の部分(第1条〜第4条)を、わかりやすく解説します。

※Apache-2.0ライセンスの概要や実践的な使い方については、別途概要記事をご参照ください。

Apache-2.0ライセンス原文・和訳

原文:
https://www.apache.org/licenses/LICENSE-2.0

日本語訳:
https://licenses.opensource.jp/Apache-2.0/Apache-2.0.html

前文:ライセンスの適用範囲

原文:

Apache License Version 2.0, January 2004

TERMS AND CONDITIONS FOR USE, REPRODUCTION, AND DISTRIBUTION

和訳:

Apache License Version 2.0, 2004年1月

使用、複製、および頒布に関する条項

新人君

これは単なるタイトルですよね?

ossan

そうだね。「使用、複製、および頒布」という言葉に注目してほしい。このライセンスは、ソフトウェアを使うこと、コピーすること、配ることについてのルールを定めているんだ。

第1条:定義(Definitions)

第1条は、ライセンス内で使われる専門用語を定義しています。すべての定義を詳しく見るのは大変なので、特に重要なものをピックアップして解説します。

基本的な用語

原文(一部抜粋):

“License” shall mean the terms and conditions for use, reproduction, and distribution as defined by Sections 1 through 9 of this document.

“Licensor” shall mean the copyright owner or entity authorized by the copyright owner that is granting the License.

“You” (or “Your”) shall mean an individual or Legal Entity exercising permissions granted by this License.

新人君

 「ライセンス」「ライセンサー」「あなた」ですね。

ossan

そう!

  • ライセンス = この文書全体(第1〜9条)
  • ライセンサー = ソフトウェアを提供する側
  • あなた = ソフトウェアを使う側

基本的な立場の定義だね。

ソース形式とオブジェクト形式

原文:

“Source” form shall mean the preferred form for making modifications, including but not limited to software source code, documentation source, and configuration files.

“Object” form shall mean any form resulting from mechanical transformation or translation of a Source form.

新人君

ソースコードと実行ファイルの違いですか?

ossan

先生: その通り!

  • ソース形式 = 人間が編集しやすい形式(.py, .js, .md など)
  • オブジェクト形式 = コンパイル後や変換後の形式(.exe, .jar, HTML など)

この区別は、配布時のルール(第4条)で重要になるよ。

派生著作物(最重要)

原文:

“Derivative Works” shall mean any work, whether in Source or Object form, that is based on (or derived from) the Work and for which the editorial revisions, annotations, elaborations, or other modifications represent, as a whole, an original work of authorship.

和訳:

「派生著作物」とは、ソース形式かオブジェクト形式かを問わず、著作物に基づく(または著作物から派生した)著作物であって、編集上の改訂、注釈、推敲、またはその他の改変が、全体として独創的な著作物を構成するものを意味します。

新人君

これは改変版のことですか?

ossan

そうだね。オリジナルをベースに大幅な機能追加や変更をしたものが「派生著作物」だよ。

重要な除外規定:

原文:

For the purposes of this License, Derivative Works shall not include works that remain separable from, or merely link (or bind by name) to the interfaces of, the Work and Derivative Works thereof.

新人君

これはどういう意味ですか?

ossan

これはとても重要なポイントだよ!

単にライブラリとして使っているだけなら、派生著作物ではないということ。

具体例:

  • ✅ Apache-2.0のライブラリをimportして使う → 派生著作物ではない
  • ✅ APIとして呼び出すだけ → 派生著作物ではない
  • ❌ コードをコピーして組み込む → 派生著作物になる
  • ❌ コードを大幅に改変 → 派生著作物になる

これがあるおかげで、Apache-2.0ライブラリを使った商用ソフトウェア全体がApache-2.0になってしまう心配がないんだ。

コントリビューションとコントリビューター

原文:

“Contribution” shall mean any work of authorship… that is intentionally submitted to Licensor for inclusion in the Work.

“Contributor” shall mean Licensor and any individual or Legal Entity on behalf of whom a Contribution has been received by Licensor.

新人君

これは「プロジェクトに貢献する」ときのことですか?

ossan

その通り!

  • コントリビューション = プルリクやパッチなど、プロジェクトへの貢献
  • コントリビューター = 貢献した人(オリジナル作者も含む)

この定義は第5条で重要になってくるよ。

第2条:著作権ライセンスの付与

原文:

Subject to the terms and conditions of this License, each Contributor hereby grants to You a perpetual, worldwide, non-exclusive, no-charge, royalty-free, irrevocable copyright license to reproduce, prepare Derivative Works of, publicly display, publicly perform, sublicense, and distribute the Work and such Derivative Works in Source or Object form.

和訳:

このライセンスの条項に従って、各コントリビューターはあなたに対し、著作物および派生著作物をソース形式またはオブジェクト形式で複製し、派生著作物を作成し、公に表示し、公に実行し、サブライセンスし、および頒布するための、永続的、世界的、非独占的、無償、ロイヤルティフリー、取消不能の著作権ライセンスをここに付与します。

新人君

これが「何ができるか」を定義している部分ですね!

ossan

その通り!キーワードを整理すると:

  • 永続的 = 期限なし
  • 世界的 = どの国でも使える
  • 非独占的 = 他の人も使える
  • 無償・ロイヤルティフリー = お金を払わなくていい
  • 取消不能 = 後から撤回されない

そして、複製、改変、配布、商用利用すべてができる。MITライセンスと同じような自由な権利付与だね。

新人君

MITと同じなら、なぜApache-2.0を使うんですか?

ossan

いい質問だね!その答えが、次の第3条の特許ライセンスなんだよ。

第3条:特許ライセンスの付与(Apache-2.0の最重要条項)

原文:

Subject to the terms and conditions of this License, each Contributor hereby grants to You a perpetual, worldwide, non-exclusive, no-charge, royalty-free, irrevocable (except as stated in this section) patent license to make, have made, use, offer to sell, sell, import, and otherwise transfer the Work.

和訳:

このライセンスの条項に従って、各コントリビューターはあなたに対し、著作物を作成し、作成させ、使用し、販売の申し出をし、販売し、輸入し、その他の方法で移転するための、永続的、世界的、非独占的、無償、ロイヤルティフリー、(本条で述べる場合を除き)取消不能の特許ライセンスをここに付与します。

新人君

特許?急に難しくなりました…

ossan

これがApache-2.0の最も重要な特徴なんだ。ゆっくり説明するね。

特許問題とは?

例:特許トラップのリスク

  1. A社がオープンソースライブラリを公開
  2. あなたがそれを使ってアプリを開発
  3. 数年後、A社が「このコードは私の特許を使っている!ライセンス料を払え!」と要求

新人君

え、オープンソースなのに特許で訴えられるんですか!?

ossan

著作権ライセンス(第2条)だけだと、理論上はそういうことが起こりうるんだ。コードの使用許可はもらっても、特許の使用許可は別だからね。

Apache-2.0の特許保護の仕組み

Apache-2.0では、第3条でこう定めている:

「コードを提供した人は、そのコードに関連する自分の特許も自動的にライセンスします」

つまり:

  • コードを公開した時点で、関連する特許も使っていいよ、という約束をしている
  • 後から「特許侵害だ!」とは言えない

新人君

なるほど!じゃあ安心してコードを使えますね。

ossan

そう!これが企業がApache-2.0を好む大きな理由なんだ。

ただし、特許ライセンスの範囲には制限があって、「そのコントリビューターが提供したコードに直接関係する特許だけ」が対象なんだ。コントリビューターが持っている特許すべてではないよ。

特許訴訟による終了条項(重要!)

原文:

If You institute patent litigation against any entity alleging that the Work or a Contribution incorporated within the Work constitutes direct or contributory patent infringement, then any patent licenses granted to You under this License for that Work shall terminate as of the date such litigation is filed.

和訳:

あなたが、著作物またはコントリビューションが直接的または間接的な特許侵害を構成すると主張して特許訴訟を提起した場合、このライセンスの下であなたに付与された当該著作物に対する特許ライセンスは、当該訴訟が提起された日をもって終了します。

新人君

これはどういう意味ですか?

ossan

簡単に言うと:

「Apache-2.0のソフトウェアに関して特許訴訟を起こしたら、あなたはそのソフトウェアを使う権利を失う」

という防御条項なんだ。

具体例:

  1. あなたの会社がApache-2.0のライブラリXを使っている
  2. あなたの会社が「ライブラリXは私の特許を侵害している!」と訴訟を起こす
  3. → その瞬間、あなたの会社はライブラリXを使う権利を失う
  4. → ライセンス違反になるので、即座に使用を停止しなければならない

新人君

訴訟を起こすと、自分が困るんですね。

ossan

そう!これによって、特許を使った攻撃を抑止しているんだ。「訴えたら、自分も使えなくなるよ」という仕組み。これが「相互防衛」と呼ばれる機能だよ。

第4条:再頒布(Redistribution)

第4条は、ソフトウェアを配布・再配布する際のルールを定めています。

原文(前文):

You may reproduce and distribute copies of the Work or Derivative Works thereof in any medium, with or without modifications, and in Source or Object form, provided that You meet the following conditions:

和訳:

あなたは、改変の有無を問わず、またソース形式かオブジェクト形式かを問わず、あらゆる媒体で著作物または派生著作物の複製を複製および頒布することができますが、次の条件を満たす必要があります。

新人君

配布するときのルールですね。

ossan

そう!第4条では、(a)〜(d)の4つの主な義務と、その後に追加のルールが定められているよ。一つずつ見ていこう。

(a) ライセンス文書のコピー提供

原文:

You must give any other recipients of the Work or Derivative Works a copy of this License;

新人君

これはMITライセンスと同じですね。

ossan

そう!配布するときは、Apache-2.0ライセンスの全文を一緒につけてね、ということだね。

(b) 変更箇所の明示

原文:

You must cause any modified files to carry prominent notices stating that You changed the files;

新人君

これはMITライセンスにはなかった条件ですね!

ossan

その通り!これがApache-2.0の重要な特徴の一つだよ。

具体的な方法:

/*
 * Copyright 2020 Original Author
 * Licensed under the Apache License, Version 2.0
 *
 * Modified by Your Name on 2024-01-15
 * - Added XX feature
 */

なぜ必要なのか:

  • オリジナル作者の責任を明確にする
  • バグ発生時の原因特定に役立つ

(c) 著作権表示の保持

原文:

You must retain, in the Source form of any Derivative Works that You distribute, all copyright, patent, trademark, and attribution notices from the Source form of the Work;

新人君

つまり、元の著作権表示を消してはいけない、ということですか?

ossan

その通り!元のファイルにあった:

  • 著作権表示(Copyright notice)
  • 特許に関する通知
  • 商標に関する通知

これらを保持する必要がある。ただし、削除したファイルに関する通知は除外していいよ。

(d) NOTICEファイルの取り扱い(重要!)

原文:

If the Work includes a “NOTICE” text file as part of its distribution, then any Derivative Works that You distribute must include a readable copy of the attribution notices contained within such NOTICE file.

新人君

NOTICEファイル?これは何ですか?

ossan

NOTICEファイルは、プロジェクトに関する追加の帰属情報を記載するための特別なファイルだよ。

典型的なNOTICEファイルの例:

Apache HTTP Server
Copyright 2016 The Apache Software Foundation.

This product includes software developed at
The Apache Software Foundation (http://www.apache.org/).

NOTICEファイルがある場合、以下のいずれかの場所に含める:

  1. NOTICEファイルとして配布
  2. ソースコードやドキュメント内に記載
  3. アプリの表示画面に表示(AboutページやLicenses画面)

新人君

なぜ3つの方法から選べるんですか?

ossan

配布形態によって適切な場所が異なるからだよ。
一般的には:

  • オープンソースライブラリ → NOTICEファイルとして配布(ソースコードと一緒に)
  • Webアプリ → フッターやAboutページに表示(ユーザーが確認しやすい)
  • モバイルアプリ → 設定画面に表示(アプリ内で完結)

配布する形式に合わせて、最も適切な方法を選べるんだ。

前編のまとめ

ここまでで、Apache-2.0ライセンスの「権利付与」部分(第1条〜第4条)を見てきました。

重要ポイントのおさらい

第1条:定義

  • 「派生著作物」の範囲が重要
  • 単なるライブラリ利用は派生著作物ではない

第2条:著作権ライセンス

  • ほぼ何でもできる自由な権利付与
  • 複製、改変、配布、商用利用すべてOK

第3条:特許ライセンス(最重要)

  • コード提供者の特許も自動的にライセンス
  • 特許訴訟を起こすと自分の権利も失う「相互防衛」機能
  • これがApache-2.0の最大の特徴

第4条:再配布の条件

  • LICENSEファイルを含める
  • 変更箇所を明記(MITにはない義務)
  • 著作権表示を保持
  • NOTICEファイルがあれば含める

次回予告:後編の内容

【後編】では、残りの第5条〜第9条を解説します:

  • 第5条:コントリビューションの提出 – プルリクを送る時の約束
  • 第6条:商標 – プロジェクト名の使用制限
  • 第7条:保証の免責 – 「現状有姿」の詳細
  • 第8条:責任の制限 – 損害賠償の免責
  • 第9条:追加的責任の引受 – 有償サポートの提供

この記事は一般的な情報提供を目的としており、法的アドバイスではありません。具体的な法的問題については、専門家にご相談ください。