はじめに

ISCライセンスは、MITライセンスよりもさらにシンプルで短いと言われるオープンソースライセンスです。わずか数行の文章ですが、法律用語が含まれているため、正確に理解するには注意深く読む必要があります。

この記事では、ISCライセンスの原文を一文ずつ丁寧に読み解いていきます。「この部分は具体的に何を意味しているのか?」「実際にはどんな場面で重要になるのか?」をわかりやすく解説します。

※ISCライセンスの概要や実践的な使い方については、ISCライセンスとは?MITライセンスよりもシンプルな選択肢をご覧ください。

ISCライセンス原文・和訳

原文を確認したい方はこちら:

原文:
https://opensource.org/license/isc-license-txt

参考和訳:
https://licenses.opensource.jp/ISC/ISC.html

以下では、ISCライセンスの原文と日本語訳をブロックごとに分けて、それぞれをわかりやすく解説していきます。

ブロック1:「何をしてもOK」の部分

原文:

Permission to use, copy, modify, and/or distribute this software for any purpose with or without fee is hereby granted, provided that the above copyright notice and this permission notice appear in all copies.

和訳:

有償無償を問わず、いかなる目的でも本ソフトウェアを使用、複製、改変、および/または配布することを、上記の著作権表示および本許諾表示がすべての複製に記載されることを条件として、ここに許可します。

新人君

これはMITライセンスの最初の部分と似ていますね!

ossan

よく気づいたね!確かに似ているけど、ISCの方がもっとシンプルなんだ。具体的に見てみよう:

できること:

  • 使う (use) – 個人でも商用でも自由に使える
  • コピーする (copy) – 何個でも複製できる
  • 改造する (modify) – 自分好みに変更できる
  • 配る (distribute) – 他の人にあげたり公開したりできる

条件:

  • 著作権表示 と このライセンス文 を全ての複製に含めること

MITライセンスにあった「merge」「publish」「sublicense」「sell」という言葉が明示されていないけど、「any purpose(いかなる目的でも)」という包括的な表現でカバーされているんだ。

新人君

 「with or without fee(有償無償を問わず)」というのは?

ossan

これは「お金を取っても取らなくても、どちらでもOK」という意味だよ。つまり:

  • 無料で配ってもいい
  • 有料の商品として販売してもいい

どちらも自由ということ。商用利用が明確に許可されているんだね。

新人君

具体的にライセンス文はどこに載せればいいんですか?

ossan

場合によって違うけど、例えば:

  • ソースコードを配布する場合: リポジトリのルートに「LICENSE」ファイルを置く
  • スマホアプリ: 設定画面の「サードパーティライセンス」や「ライセンス情報」
  • コンパイル済みの製品: ドキュメントや「THIRD-PARTY-LICENSES」フォルダに記載

要は、利用者が必要に応じて確認できる場所にあればOKなんだ。判断に迷ったら、記載しておく方が安全だよ。

ブロック2:「保証はなく、責任も負わない」の部分

原文:

THE SOFTWARE IS PROVIDED “AS IS” AND THE AUTHOR DISCLAIMS ALL WARRANTIES WITH REGARD TO THIS SOFTWARE INCLUDING ALL IMPLIED WARRANTIES OF MERCHANTABILITY AND FITNESS. IN NO EVENT SHALL THE AUTHOR BE LIABLE FOR ANY SPECIAL, DIRECT, INDIRECT, OR CONSEQUENTIAL DAMAGES OR ANY DAMAGES WHATSOEVER RESULTING FROM LOSS OF USE, DATA OR PROFITS, WHETHER IN AN ACTION OF CONTRACT, NEGLIGENCE OR OTHER TORTIOUS ACTION, ARISING OUT OF OR IN CONNECTION WITH THE USE OR PERFORMANCE OF THIS SOFTWARE.

和訳:

本ソフトウェアは「現状有姿」で提供され、作者は商品性および特定目的への適合性を含むがこれらに限定されない、本ソフトウェアに関するすべての黙示的保証を否認します。作者は、契約、過失、またはその他の不法行為であるかを問わず、本ソフトウェアの使用または性能に起因または関連して生じる、使用機会の喪失、データ、または利益から生じる特別損害、直接損害、間接損害、または結果的損害を含むがこれらに限定されないいかなる損害についても、一切の責任を負いません。

新人君

これはMITライセンスと同じような内容ですか?

ossan

基本的な意味は同じだけど、ISCの方がより具体的に書かれている部分もあるんだ。大きく2つに分けて見てみよう:

前半部分:「保証はないよ」

「AS IS」 – 現状有姿で提供される

つまり:

  • 「ちゃんと動きます」という保証はしない
  • 「あなたの目的に合ってます」という保証もしない
  • 「商品として売れる品質です」とも言わない

これはMITライセンスと同じ意味だね。

後半部分:「責任も負わないよ」

ここが詳しく書かれていて:

損害の種類:

  • 特別損害 (special damages) – 特殊な事情で生じた損害
  • 直接損害 (direct damages) – 直接的に生じた損害
  • 間接損害 (indirect damages) – 間接的に生じた損害
  • 結果的損害 (consequential damages) – 結果として生じた損害

具体例:

  • 使用機会の喪失 (loss of use) – ソフトが使えなくなった
  • データの喪失 (data) – データが消えた
  • 利益の喪失 (profits) – ビジネスで損失が出た

こういった、あらゆる種類の損害について責任を負わないということ。

新人君

MITより詳しく書いてあるんですね。これってISCの方が厳しいんですか?

ossan

いや、意味としては同じなんだ。ISCは損害の種類を具体的に列挙することで、より明確にしているだけ。「これもダメ、あれもダメ」と念押ししている感じだね。法的な曖昧さを減らすための工夫なんだよ。

新人君

でも、使う側としてはちょっと怖い気もします…

ossan

その気持ちはよくわかるよ。でも、これがあるからこそ無料で自由に使えるんだ。作者は好意で公開しているから、「責任まで負えないよ」という条件なんだね。使う側も「自己責任で使います」と理解した上で使うということ。実際、バグがあっても作者に損害賠償を請求するような事例はほとんどないし、みんなその前提で使っているんだよ。

MITライセンスとの文面の違い

新人君

結局、MITとISCって何が違うんですか?

ossan

法的な効果はほぼ同じなんだけど、表現の仕方が違うんだ。具体的に比較してみよう:

権利の表現方法

MITライセンス:

including without limitation the rights to use, copy, modify, merge, publish, distribute, sublicense, and/or sell

できることを細かく列挙している(使う、コピーする、改変する、結合する、公開する、配布する、再許諾する、販売する…)

ISCライセンス:

Permission to use, copy, modify, and/or distribute this software for any purpose

「any purpose(いかなる目的でも)」という包括的な表現を使っている

新人君

ISCの方がシンプルですね!でも「売る」って書いてないけど大丈夫なんですか?

ossan

「any purpose with or without fee」という表現で、有償での利用(つまり販売)も含まれているから問題ないんだ。MITは具体的に「sell」と書いているけど、ISCは「いかなる目的でも、お金を取っても取らなくても」と言っているから、同じことをカバーしているんだよ。

文章の構造

MITライセンス:

  • 長い一文で権利を列挙
  • 「merge」「publish」「sublicense」など、やや専門的な用語を使用

ISCライセンス:

  • より短く、シンプルな表現
  • 日常的な動詞(use, copy, modify, distribute)のみを使用

どちらも法的には同じ自由度を与えているけど、ISCの方が読みやすく、理解しやすいということだね。

まとめ

ISCライセンスの原文を読み解いてきましたが、いかがでしたか?

重要なポイントをおさらい:

  1. ブロック1: 何でもできる自由なライセンス(商用利用もOK)。唯一の条件は著作権表示とライセンス文を残すこと
  2. ブロック2: ソフトウェアの品質は保証されず、使用によって生じた損害の責任も負わない

という、MITライセンスと同じく自由だけど自己責任のライセンスでしたね。

ISCライセンスの特徴:

  • ✅ 非常にシンプルで短い(MITより約35%短い)
  • ✅ 法的効果はMITとほぼ同じ
  • ✅ 免責条項で損害の種類を具体的に列挙
  • ✅ 包括的な表現(any purpose)で権利を付与

原文を理解することで、ISCライセンスをより安心して使えるようになったはずです。ライセンスを正しく理解して、オープンソースの世界を楽しみましょう!


この記事は一般的な情報提供を目的としており、法的アドバイスではありません。具体的な法的問題については、専門家にご相談ください。