はじめに
オープンソースソフトウェアの世界で、最もユニークで自由度の高いライセンスとして知られるWTFPL。
その名前から想像できるように、開発者に究極の自由を与える特殊なライセンスです。
今回は、WTFPLライセンスの基本から実際の使い方まで、わかりやすく解説します。
WTFPLライセンスとは
WTFPLは「Do What The Fuck You Want To Public License」の略で、2000年にBanlu Kemeur氏によって作成されたオープンソースライセンスです。現在広く使用されているのはバージョン2で、2004年にSam Hocevar氏によって改良されました。その名前が示す通り、利用者に最大限の自由を与えることを目的としたライセンスです。
主な特徴
1. 究極のシンプル性
WTFPLライセンスは、すべてのオープンソースライセンスの中で最も短く、わずか数行で構成されています。
2. 完全な自由(Ultimate Permissive)
- 商用利用が完全に自由
- 改変・再配布に一切の制限なし
- クローズドソース※1での利用も完全に自由
- 著作権表示の義務すらなし
- ライセンス条文の同梱義務もなし
3. 義務の完全な不存在
WTFPLライセンスは、利用者に対して一切の義務を課しません。文字通り「好きなようにしてください」というスタンスです。
WTFPLライセンスの全文
以下に公式のWTFPLライセンス全文を掲載します(WTFPL Official Site より):
DO WHAT THE FUCK YOU WANT TO PUBLIC LICENSE
Version 2, December 2004
Copyright (C) 2004 Sam Hocevar <sam@hocevar.net>
Everyone is permitted to copy and distribute verbatim or modified
copies of this license document, and changing it is allowed as long
as the name is changed.
DO WHAT THE FUCK YOU WANT TO PUBLIC LICENSE
TERMS AND CONDITIONS FOR COPYING, DISTRIBUTION AND MODIFICATION
0. You just DO WHAT THE FUCK YOU WANT TO.
日本語参考訳(非公式):
どうとでも勝手にしやがれ・公衆利用許諾書
第2版、2004年12月
Copyright (C) 2004 Sam Hocevar <sam@hocevar.net>
このライセンス文書は、誰もがそのままコピーして配布することができます。
名前を変更していただければ、このライセンス文書を変更することも許可します。
どうとでも勝手にしやがれ・公衆利用許諾書
複製、頒布、変更に関する利用条件および条件
0. あなたがやりたいことを何でも勝手にやってください。
この極めてシンプルな文章が、ソフトウェアの完全な自由利用を可能にしています。条項は実質的に「0. あなたがやりたいことを何でも勝手にやってください」の1つだけです。
※日本語訳は非公式のものです。法的効力を持つのは英語版のみとなります。
何ができるのか
完全に自由な利用
- 個人利用・商用利用の完全な自由
- 改変・カスタマイズの完全な自由
- 他のプロジェクトへの自由な組み込み
- 著作権表示の削除も可能
完全に自由な配布・再配布
- 元のソースコードの自由な配布
- 改変したバージョンの自由な配布
- プロプライエタリソフトウェアの一部として自由に配布
- ライセンス表示なしでの配布も可能
クローズドソースでの自由な利用
- ソースコードを一切公開せずに商用製品に組み込み可能
- プロプライエタリソフトウェア※2との完全に自由な組み合わせ
- 改変した内容を秘匿して配布することが完全に自由
- 元のライセンス表示を削除することも可能
完全に自由なライセンス変更
- WTFPLのソフトウェアを含むプロジェクト全体に任意のライセンスを適用可能
- より制限的なライセンス(GPLなど)への変更も自由
- ライセンス表示義務が一切ないため、ライセンス変更も完全に自由
注意すべき点
1. 完全無保証
WTFPLライセンスは暗黙的に「AS IS」条項を含み、ソフトウェアの品質や動作について一切保証されません。
2. 完全免責
開発者は、ソフトウェアの使用によって生じた損害について一切責任を負いません。
3. 義務が存在しない
著作権表示やライセンス条文の同梱義務が一切ないため、利用者は何も気にする必要がありません。一方で、元の作者への敬意は道徳的な問題として残ります。
4. 企業での採用に注意
その名前と極端な自由度のため、保守的な企業環境では採用が困難な場合があります。
他のライセンスとの比較
ライセンス | 著作権表示義務 | ソース公開義務 | 主な特徴 |
---|---|---|---|
WTFPL | なし | なし | 完全に制約なし・究極の自由 |
MIT | あり | なし | シンプルで制約が少ない |
Apache 2.0 | あり | なし | 詳細な条文・企業利用に人気 |
GPL v3 | あり | あり | 改変版も必ずオープンソース化 |
Public Domain | なし | なし | 著作権放棄(法的に複雑) |
実際の使用例
WTFPLライセンスは主に個人開発者や小規模プロジェクトで採用されています:
- 各種ユーティリティツール – GitHubで検索すると多数の個人プロジェクトが見つかります
- 学習用・実験用プロジェクト – 教育目的や実験的なプロジェクト
- 個人の小規模ライブラリ – 開発者が完全な自由利用を推奨する場合
- プロトタイプやデモコード – 制約なしで利用してもらいたいサンプルコード
注:大規模な商用プロジェクトでは、その名前の特殊性もあり、より保守的なライセンス(MITやApacheなど)が選択される傾向にあります。
開発者として気をつけること
プロジェクトでWTFPLライセンスを採用する場合
1. LICENSEファイルの作成
- プロジェクトルートに「LICENSE」または「COPYING」ファイルを作成
- WTFPLライセンス全文をコピー
- 著作権部分を自分の情報に更新(任意)
2. README.mdでの表示
## License
This project is licensed under the WTFPL - see the [LICENSE](LICENSE) file for details.
3. 企業環境での検討
- 会社のライセンスポリシーとの適合性を確認
- ビジネス環境でのWTFPLの受け入れ可能性を検討
- より保守的な環境ではMITライセンスの検討も推奨
WTFPLライセンスのソフトウェアを利用する場合
1. ライセンス確認の手順
- GitHubリポジトリのLICENSEファイルまたはCOPYINGファイルを確認
- プロジェクトのドキュメントでライセンス情報を確認
- WTFPLの場合、利用に関する制約は一切なし
2. 配布時の対応
- ライセンス表示義務が一切ないため、何もする必要なし
- ただし、道徳的観点から元の作者への言及を検討
- 企業利用の場合は、法務部門との相談を推奨
WTFPLの哲学と背景
設計思想
WTFPLは、複雑化するオープンソースライセンスの世界に対する一種のアンチテーゼとして生まれました。「ソフトウェアは自由であるべき」という根本的な哲学を、最もシンプルな形で表現したライセンスです。
パブリックドメインとの違い
パブリックドメインは法的概念が複雑で国によって解釈が異なりますが、WTFPLは明確なライセンス文書として、どの法域でも同じ効力を持ちます。
適用場面
- 個人の小規模プロジェクト
- 学習用・教育用のコード
- 実験的なプロジェクト
- 商用利用を積極的に推奨したいプロジェクト
- ライセンス管理の複雑さを避けたいプロジェクト
まとめ
WTFPLライセンスは、オープンソースソフトウェアの究極の自由を体現したユニークなライセンスです。その極端なシンプルさと完全な自由度は、特定の用途において非常に価値があります。
一方で、その名前や極端な自由度のため、すべての環境に適しているわけではありません。プロジェクトの性質、対象ユーザー、利用環境を慎重に検討した上で採用することが重要です。
開発者として、WTFPLライセンスの思想を理解し、適切な場面で活用することで、より自由で創造的なソフトウェア開発エコシステムの発展に貢献できるでしょう。
用語解説
※1 クローズドソース:ソースコードが一般に公開されていないソフトウェア。企業の機密情報として扱われる。
※2 プロプライエタリソフトウェア:特定の企業や個人が所有権を持つソフトウェア。ライセンス料を支払って使用権を購入し、ソースコードの閲覧や改変は制限される。例:Microsoft Office、Adobe Photoshop、Windows OS。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、法的アドバイスではありません。具体的な法的問題については、専門家にご相談ください。WTFPLライセンスの採用は、プロジェクトの性質と環境を慎重に検討した上で行ってください。