はじめに

オープンソースソフトウェアのライセンスの中で、最も制約が少ないと言われる0BSD(Zero-Clause BSD)ライセンス。「究極のパーミッシブライセンス」とも呼ばれるこのライセンスは、実質的にパブリックドメインに近い自由度を提供します。
今回は、0BSDライセンスの基本から実際の使い方まで、わかりやすく解説します。

0BSDライセンスとは

0BSD(Zero-Clause BSD)ライセンスは、従来のBSDライセンスから著作権表示義務を取り除いた、極めてシンプルなオープンソースライセンスです。
正式には「BSD Zero Clause License」と呼ばれ、Open Source Initiative(OSI)によって2018年に承認されました(元々は「Free Public License 1.0.0」として承認され、その後改名されました)。

主な特徴

1. 究極の自由度

0BSDライセンスは、著作権表示の保持すら必要とせず、実質的にパブリックドメインと同等の自由度を提供します。

2. 極めてシンプルな条文

  • 全体でわずか100語程度の短いライセンス文
  • 理解しやすく、法務部門での確認も容易
  • 翻訳や解釈の曖昧さが最小限

3. 完全な商用利用の自由

  • 商用利用が完全に自由
  • 著作権表示も不要
  • クローズドソース※1での利用も制限なし
  • リブランディングも可能

0BSDライセンスの全文

0BSDライセンスの全文は非常に短く、理解しやすいのが特徴です。
公式の全文はZero-Clause BSD – Open Source Initiativeで確認できます。

BSD Zero Clause License

Copyright (c) [year] [fullname]

Permission to use, copy, modify, and/or distribute this software for any
purpose with or without fee is hereby granted.

THE SOFTWARE IS PROVIDED "AS IS" AND THE AUTHOR DISCLAIMS ALL WARRANTIES
WITH REGARD TO THIS SOFTWARE INCLUDING ALL IMPLIED WARRANTIES OF
MERCHANTABILITY AND FITNESS. IN NO EVENT SHALL THE AUTHOR BE LIABLE FOR
ANY SPECIAL, DIRECT, INDIRECT, OR CONSEQUENTIAL DAMAGES OR ANY DAMAGES
WHATSOEVER RESULTING FROM LOSS OF USE, DATA OR PROFITS, WHETHER IN AN
ACTION OF CONTRACT, NEGLIGENCE OR OTHER TORTIOUS ACTION, ARISING OUT OF
OR IN CONNECTION WITH THE USE OR PERFORMANCE OF THIS SOFTWARE.
0BSD License
BSD ゼロ条項ライセンス

Copyright (c) [年] [氏名]

いかなる目的においても、有償・無償を問わず、本ソフトウェアを使用、複製、修正、及び/または頒布することを許可します。

本ソフトウェアは「現状のまま」提供されており、著作者は、商品性および適応性の黙示的保証を含め、本ソフトウェアに関する責任を一切負いません。いかなる場合も、契約に沿った行為の如何を問わず、過失またはその他の不法行為であるかにかかわらず、本ソフトウェアの使用または操作が原因で発生した使用不能損失、データまたは利益の損失に起因するあらゆる特別、直接的、間接的、または派生的な損害について著作者は一切の責任を負いません。

この簡潔な条文が、最大限の自由度と最小限の制約を実現しています。

何ができるのか

完全に自由な利用

  • 個人利用・商用利用の完全な自由
  • 改変・カスタマイズが無制限
  • 他のプロジェクトへの自由な組み込み

制約のない配布・再配布

  • 元のソースコードの配布
  • 改変したバージョンの配布
  • プロプライエタリソフトウェア※2の一部として配布
  • 著作権表示の保持義務なし

完全なクローズドソース利用

  • ソースコードを公開せずに商用製品に組み込み可能
  • プロプライエタリソフトウェアとの組み合わせが完全に自由
  • 改変した内容を秘匿したまま配布可能
  • 著作権者のクレジット表示も不要

リブランディングとサブライセンス

  • 元の作者名や著作権表示を削除可能
  • 完全なリブランディングが可能
  • あらゆるライセンスでの再配布が可能
  • 独自の著作権表示の追加も自由

注意すべき点

1. 無保証の原則

0BSDライセンスは明確に無保証を謳っており、ソフトウェアの欠陥による損害について作者は一切の責任を負いません。

2. パブリックドメインとの違い

技術的な違い:

  • パブリックドメイン:著作権そのものが存在しない状態
  • 0BSDライセンス:著作権は存在するが、ほぼすべての権利を許諾

実用上の違い:

  • パブリックドメインは法的概念が国によって異なる
  • 0BSDライセンスは国際的に一貫した法的枠組みを提供
  • 企業の法務部門ではライセンス形式の方が扱いやすい

3. 特許権の扱い

0BSDライセンスには明示的な特許ライセンス条項がないため、特許権については別途考慮が必要です。Apache-2.0のような特許保護は提供されません。

4. 道徳的・倫理的配慮

法的な義務はありませんが、以下の点を考慮することが推奨されます:

  • 元の作者への敬意の表示
  • コミュニティへの貢献の認知
  • オープンソース精神の尊重

他のライセンスとの比較

ライセンス著作権表示義務特許保護条文の長さ主な特徴
0BSDなしなし極めて短い究極の自由度・実質パブリックドメイン
MITありなし短いシンプルで制約が少ない
Apache-2.0ありあり長い企業利用に配慮・特許保護あり
BSD 3-Clauseありなし中程度伝統的で安定したライセンス

MITライセンスとの主な違い

  • MIT:著作権表示とライセンス表示の保持が必須
  • 0BSD:著作権表示の保持が不要
  • 実用上の違い:配布物に元のライセンス文を含める必要がない

実際の使用例

0BSDライセンスは多くの有名なプロジェクトで採用されています:

  • Toybox – Android Open Source Projectで採用されているLinuxコマンドラインユーティリティ群
  • Lucia – TypeScript認証ライブラリ
  • pythoncapi-compat – Python C API互換ヘッダー

開発者として気をつけること

プロジェクトで0BSDライセンスを採用する場合

1. LICENSEファイルの作成

BSD Zero Clause License

Copyright (c) 2024 [Your Name]

Permission to use, copy, modify, and/or distribute this software for any
purpose with or without fee is hereby granted.

THE SOFTWARE IS PROVIDED "AS IS" AND THE AUTHOR DISCLAIMS ALL WARRANTIES
WITH REGARD TO THIS SOFTWARE INCLUDING ALL IMPLIED WARRANTIES OF
MERCHANTABILITY AND FITNESS. IN NO EVENT SHALL THE AUTHOR BE LIABLE FOR
ANY SPECIAL, DIRECT, INDIRECT, OR CONSEQUENTIAL DAMAGES OR ANY DAMAGES
WHATSOEVER RESULTING FROM LOSS OF USE, DATA OR PROFITS, WHETHER IN AN
ACTION OF CONTRACT, NEGLIGENCE OR OTHER TORTIOUS ACTION, ARISING OUT OF
OR IN CONNECTION WITH THE USE OR PERFORMANCE OF THIS SOFTWARE.

2. ソースファイルへのヘッダー追加(オプション)

0BSDでは必須ではありませんが、明確化のために追加することも可能:

/*
 * Copyright (c) 2024 [Your Name]
 * 
 * This work is licensed under the BSD Zero Clause License.
 * See LICENSE file for details.
 */

3. README.mdでの表示

## License
This project is licensed under the BSD Zero Clause License - see the [LICENSE](LICENSE) file for details.

4. 特許や知的財産権の事前確認

0BSDライセンスには特許保護がないため、以下を事前確認:

  • 公開するコードが自社の特許技術を含んでいないか
  • 第三者の特許を侵害していないか
  • 知的財産部門との事前相談が重要

0BSDライセンスのソフトウェアを利用する場合

1. ライセンス確認の手順

  • GitHubリポジトリのLICENSEファイルを確認
  • package.jsonやライブラリ情報でライセンスを確認
  • 本当に0BSDライセンスであることを再確認

2. 利用時の対応

技術的な対応:

  • 特に必要な対応なし
  • 著作権表示の保持義務もなし
  • 配布時にライセンス文の同梱も不要

推奨される対応:

  • 可能であれば元の作者への敬意を示す
  • 社内での使用記録の管理
  • コミュニティへの貢献の検討

3. 企業での利用における考慮点

  • 法務部門での確認(特に初回利用時)
  • 他のライブラリとの依存関係の管理
  • セキュリティアップデートの追跡方法

まとめ

0BSDライセンスは、オープンソースライセンスの中で最も自由度が高く、実質的にパブリックドメインと同等の使い勝手を提供します。著作権表示義務もなく、あらゆる用途で自由に使用できるため、広く普及させたいライブラリや教育用コードに最適です。

一方で、特許保護がないことや、作者への認知度向上効果が限定的であることを理解した上で選択することが重要です。プロジェクトの目的と照らし合わせて、適切なライセンスを選択しましょう。

開発者として、ライセンスの内容を正しく理解し、適切に活用することで、オープンソースエコシステムの更なる発展に貢献できるでしょう。最大限の自由度を提供したい場合や、シンプルさを重視する場合は、0BSDライセンスの採用を検討してみてください。


用語解説

※1 クローズドソース:ソースコードが一般に公開されていないソフトウェア。企業の機密情報として扱われる。

※2 プロプライエタリソフトウェア:特定の企業や個人が所有権を持つソフトウェア。ライセンス料を支払って使用権を購入し、ソースコードの閲覧や改変は制限される。例:Microsoft Office、Adobe Photoshop、Windows OS。


この記事は一般的な情報提供を目的としており、法的アドバイスではありません。具体的な法的問題については、専門家にご相談ください。