はじめに

オープンソースソフトウェアの世界で、MITライセンスと並んでシンプルなライセンスとして知られているISCライセンス。
Node.jsのパッケージマネージャーnpmでも多く採用されており、近年注目を集めています。
今回は、ISCライセンスの基本から実際の使い方まで、詳しく解説します。

ISCライセンスとは

ISCライセンスは、Internet Systems Consortium(インターネットシステムズコンソーシアム)によって作成されたオープンソースライセンスです。
正式には「ISC License」と呼ばれ、MITライセンスをさらにシンプルにしたような内容が特徴的です。

主な特徴

1. 極めてシンプル

ISCライセンスは、MITライセンスよりもさらに短い文面で、不要な文言を削ぎ落とした非常にシンプルな構造になっています。

2. 非常に寛容(Permissive)

  • 商用利用が可能
  • 改変・再配布が自由
  • クローズドソース※1での利用も可能
  • 他のライセンスとの組み合わせも柔軟

3. 最小限の義務

利用者が守るべき義務は以下の2点のみです:

  • 著作権表示の保持
  • ライセンス条文の同梱

ISCライセンスの全文

以下に公式のISCライセンス全文を掲載します(ISC License – Open Source Initiative より):

ISC License

Copyright (c) [year] [fullname]

Permission to use, copy, modify, and/or distribute this software for any
purpose with or without fee is hereby granted, provided that the above
copyright notice and this permission notice appear in all copies.

THE SOFTWARE IS PROVIDED "AS IS" AND THE AUTHOR DISCLAIMS ALL WARRANTIES WITH
REGARD TO THIS SOFTWARE INCLUDING ALL IMPLIED WARRANTIES OF MERCHANTABILITY
AND FITNESS. IN NO EVENT SHALL THE AUTHOR BE LIABLE FOR ANY SPECIAL, DIRECT,
INDIRECT, OR CONSEQUENTIAL DAMAGES OR ANY DAMAGES WHATSOEVER RESULTING FROM
LOSS OF USE, DATA OR PROFITS, WHETHER IN AN ACTION OF CONTRACT, NEGLIGENCE OR
OTHER TORTIOUS ACTION, ARISING OUT OF OR IN CONNECTION WITH THE USE OR
PERFORMANCE OF THIS SOFTWARE.
ISC License
Copyright <年> <著者>

本ソフトウェアを使用、複製、改変、及び/または頒布する権利は、いかなる目的においても有償・無償を問わず、本許諾によって付与されます。ただし、上記の著作権表示及びこの許可表示が全ての複製物に記載されていることを条件とします。

本ソフトウェアは「現状のまま」提供されており、著者は、販売可能性及び適合性に関するあらゆる暗示的保証を含む、本ソフトウェアに関する全ての保証を放棄するものとします。いかなる場合も、契約に沿った行為の如何を問わず、過失またはその他の不法行為であるかにかかわらず、本ソフトウェアの使用または操作が原因で発生した使用不能損失、データまたは利益の損失に起因するあらゆる特別、直接的、間接的、または派生的な損害について著作者は一切の責任を負いません。

この短い文章が、ソフトウェアの自由な利用を可能にする一方で、開発者を法的リスクから保護しています。

MITライセンスとの違い

文面の簡潔性

ISCライセンスは、MITライセンスから冗長な表現を取り除き、より簡潔で読みやすい文面になっています。機能的には両者はほぼ同等ですが、ISCライセンスの方がより洗練された表現を採用しています。

歴史的背景

  • MITライセンス:マサチューセッツ工科大学で開発
  • ISCライセンス:Internet Systems Consortiumで開発(BINDなどのネットワーク関連ソフトウェアで有名)

何ができるのか

自由な利用

  • 個人利用・商用利用問わず使用可能
  • 改変・カスタマイズが自由
  • 他のプロジェクトへの組み込み

配布・再配布

  • 元のソースコードの配布
  • 改変したバージョンの配布
  • プロプライエタリソフトウェアの一部として配布

クローズドソースでの利用

  • ソースコードを公開せずに商用製品に組み込み可能
  • プロプライエタリソフトウェア※2(商用ソフトウェア)との組み合わせが自由
  • 改変した内容を秘匿したまま配布することができる

サブライセンス

  • ISCライセンスのソフトウェアを含むプロジェクト全体に別のライセンスを適用可能
  • より制限的なライセンス(GPLなど)との組み合わせも可能
  • ただし、元のISCライセンス部分の著作権表示とライセンス条文は保持必須

注意すべき点

1. 無保証

ISCライセンスは「AS IS」条項により、ソフトウェアの品質や動作について一切保証されません。

2. 免責事項

開発者は、ソフトウェアの使用によって生じた損害について責任を負いません。

3. 必須事項の遵守

著作権表示とライセンス条文の同梱は必須です。これを怠ると著作権侵害になる可能性があります。

他のライセンスとの比較

ライセンスソース公開義務文面の長さ主な特徴
ISCなし最も短い極めてシンプルで読みやすい
MITなし短い最も普及している寛容ライセンス
Apache 2.0なし長いより詳細な条文・企業利用に人気
GPL v3あり非常に長い改変版も必ずオープンソース化
BSDなし短いMITと似ているが歴史が古い

実際の使用例

ISCライセンスは多くの有名なプロジェクトで採用されています:

  • semver – セマンティックバージョニングライブラリ(npmで使用)
  • node-which – Unix whichコマンドのNode.js版
  • npmパッケージ全般 – npm initで作成される新しいパッケージのデフォルトライセンス
  • OpenBSDプロジェクト – 多くのコントリビューションで採用

開発者として気をつけること

プロジェクトでISCライセンスを採用する場合

1. LICENSEファイルの作成

  • プロジェクトルートに「LICENSE」ファイルを作成
  • ISCライセンス全文をコピー
  • [year]を現在の年(例:2024)に置換
  • [fullname]を自分の名前または組織名に置換

2. README.mdでの表示

## License
This project is licensed under the ISC License - see the [LICENSE](LICENSE) file for details.

3. package.json(Node.jsプロジェクトの場合)

{
  "license": "ISC"
}

4. 依存ライブラリの確認

使用しているライブラリのライセンスとの互換性を確認する(例:GPLライセンスのライブラリを使用している場合、プロジェクト全体がGPLライセンスになる可能性がある)

ISCライセンスのソフトウェアを利用する場合

1. ライセンス確認の手順

  • GitHubリポジトリのLICENSEファイルを確認
  • package.jsonやライブラリ情報でライセンスを確認
  • 不明な場合は作者に問い合わせ

2. 配布時の対応

  • 使用したライブラリのLICENSEファイルを自分のプロジェクトに同梱
  • 「THIRD-PARTY-LICENSES」フォルダを作成して整理
  • 著作権表示を削除・改変しない

MITライセンスとISCライセンス、どちらを選ぶべき?

ISCライセンスを選ぶ理由

  • より簡潔で読みやすい文面
  • Node.jsエコシステムとの親和性が高い
  • 法的に同等の効力を持ちながらより洗練されている

MITライセンスを選ぶ理由

  • より広く認知されており、理解されやすい
  • 企業の法務部門でも馴染みがある
  • 豊富な採用実績と判例

実用的な選択基準

  • Node.jsプロジェクト:ISCライセンスが自然
  • 汎用的なプロジェクト:MITライセンスが無難
  • 企業での利用:MITライセンスの方が受け入れられやすい場合が多い

まとめ

ISCライセンスは、MITライセンスと同等の自由度を持ちながら、より簡潔で洗練された文面を提供するオープンソースライセンスです。特にNode.jsエコシステムにおいて人気が高く、シンプルさを重視する開発者にとって魅力的な選択肢となっています。

開発者として、プロジェクトの性質やターゲットとする利用者層を考慮して、適切なライセンスを選択することが重要です。ISCライセンスは、技術的に洗練されたプロジェクトや、シンプルさを重視する場面において優れた選択肢と言えるでしょう。


用語解説

※1 クローズドソース:ソースコードが一般に公開されていないソフトウェア。企業の機密情報として扱われる。

※2 プロプライエタリソフトウェア:特定の企業や個人が所有権を持つソフトウェア。ライセンス料を支払って使用権を購入し、ソースコードの閲覧や改変は制限される。例:Microsoft Office、Adobe Photoshop、Windows OS。


この記事は一般的な情報提供を目的としており、法的アドバイスではありません。具体的な法的問題については、専門家にご相談ください。